最新記事

感染

飛行機内・ホテル廊下で感染連鎖、わずか85分の国内線でも:NZ調査

2021年3月25日(木)15時00分
青葉やまと

このうちCについては解析結果と座席配置より、Aから感染したものとほぼ確定している。AとBについてはゲノムに差がなく、どちらかが他方に感染させたのか、あるいは搭乗前にインド国内で共通の感染源から伝播したのか、現時点で特定できていない。いずれにせよ、機上で少なくとも1件の感染が起きていたことになる。

機内ではウイルス対策が取られており、感染は想定外だったことだろう。問題のチャーター便の搭乗率は35%ほどで、空席の方が多いという状態だ。また、安全を確保するため座席は間隔を空け、1列置きに指定されていた。機内ではマスクの着用が義務づけられ、さらに降機の際には10名ずつの小グループに分かれて互いに物理的に距離を取るという徹底ぶりだ。

静かに発生した感染に誰も気づかぬまま、同機はニュージーランド南島のクライストチャーチの街に降り立つ。一行はバスで政府指定のホテルへと向かい、そこで2週間の隔離生活に入った。

機上感染していたCは隔離後すぐのPCR検査では陰性だったが、隔離12日目に行った2回目の検査の時点で陽性反応を示している。すぐに他の宿泊者と離れた場所に移されたが、近くの客室で同じく隔離生活を送っていたDとEにウイルスが拡がる結果となった。

DとEは感染に気づかないまま、南島から北島のオークランドへと国内チャーター便で移動する。このとき、機内で二人の1席前に座っていたGを巻き込んでしまう。本アウトブレイクにおける、機上感染のさらなる例だ。D、E、Gが帰宅後に各家庭内でも感染が起こり、連鎖は全9名に拡大した。

Gが感染に至った国内便の飛行時間はわずか85分だ。短距離の国内便であっても感染リスクは残るということになる。

ホテル内感染のミステリー

昨年9月にこの一件がニュージーランドで報道されると、現地では感染事例として注目を集めると同時に、不可解なアウトブレイクだとしてにわかに話題となった。問題はホテルでの感染にまつわる部分だ。

ホテルでは前述のように、すでに国際線機内で感染していたCから、DとEがウイルスを受けた。DとEは親と乳幼児で、互いに同室している。しかし、Cの部屋とは別の宿泊室であり、本来ならばウイルスは及ばないはずだ。各部屋にはバスルームが備わっており、共用のシャワーあるいはトイレが感染源ということも考えにくい。どの部屋にもバルコニーはなく、両者が偶然同じタイミングで外気を吸ったということもあり得ないのだ。

翌月になってニュージーランド保健省は、苦し紛れの「ゴミ箱説」を発表した。安全のため清掃担当が客室に入れないことから、隔離中に出たゴミは、フロアごとに設けられたゴミ箱まで各自で持ち込む運用となっていた。このときCの直後にDまたはEがゴミ箱のフタに触れたことで、ウイルスをもらい受けたとの推論だ。

しかし、コロナウイルスは主に飛沫感染で拡がるとされているうえ、何らかの物証があってゴミ箱のフタが槍玉に上がったわけでもない。ニュージーランドのスタッフ誌は専門家にコメントを求めたうえで、保健省の説には「ごくわずかな可能性しかない」と切り捨てている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナに合意促す 米ロ首脳会談は停

ワールド

ゼレンスキー氏、米ロとの3カ国協議を支持 「最大限

ワールド

ウクライナ大統領、18日に訪米へ 米ロ会談後にトラ

ワールド

中国の王毅外相、インド訪問へ ヒマラヤの係争地につ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中