最新記事

東日本大震災

震災から10年、検証なきインフラ投資 復興に重い課題

2021年3月10日(水)10時32分

高齢化の影響もうかがわれる。気仙沼の高齢化率は38%、10年前の30%から上昇した。陸前高田も39.6%だ。どちらも全国平均の28%を大きく上回っている。気仙沼市小泉地区で当初計画の半分程度しか入居しなかったのは、他の土地への移転に加え、当初の入居希望者が65歳を過ぎて住宅ローンの借入審査が通らなくなったことや、老人施設に入居したことも一因だ。

インフラ投資に偏った復興予算、若手人材対策に回せず

防潮堤や道路整備、土地かさ上げや宅地造成といったインフラへの投資額は13.4兆円にのぼり、31兆円の復興事業費の3分の1以上を占めた。

これに対し、産業再生への支出は4.4兆円と、インフラ投資の3分の1の規模にとどまる。それでも、三陸地域などで産業の中心だった食品加工業をはじめ、被災3県の製造業の付加価値は震災前より26%程度増加。再生の兆しは見えてきた。

一方で、働き手となる人口の減少には歯止めがかからず、「人への投資」は後手に回った。震災直前の2010年から19年までの3県の人口減少率は5.4%と全国の1.5%減を大きく上回る。特に三陸海岸地域のように都市部から遠く離れた街では、若手人材や大学・企業の誘致への施策が乏しく、新たな産業の呼び込みは困難だ。

気仙沼市の今川議員は「復興予算は使途が限定されていた。予算が自由に配られて市町村が独自に使えるのであれば、若い人や移住者を呼び込む施策に取り組めた」と語る。仙台から遠い地のりで大学の誘致もままならないため、先端企業の誘致も難しく、人口減少と高齢化に対応した新たな街づくりは難しい課題だという。

明治大学公共政策大学院の田中秀明専任教授は「防潮堤やかさ上げなどの街づくりは、人口減少を考慮しもっと時間をかけるべきだった。この10年間、何が問題だったか、将来どうすべきかレビューしないといけない」と指摘する。

(中川泉 金子かおり Daniel Leussink 編集:石田仁志)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・3.11被災地を取材し続けてきた櫻井翔が語る「記憶」とずるさ、喜び
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...
→→→【2021年最新 証券会社ランキング】


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

UPS機が離陸後墜落、米ケンタッキー州 負傷者の情

ワールド

政策金利は「過度に制約的」、中銀は利下げ迫られる=

ビジネス

10月の米自動車販売は減少、EV補助金打ち切りで=

ワールド

ブリュッセル空港がドローン目撃で閉鎖、週末の空軍基
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中