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ミャンマー

クーデターの裏に少数民族蔑視 ミャンマーが抱える二重の分断

Myanmar’s Great Divide

2021年2月8日(月)17時25分
セバスチャン・ストランジオ

2018年には北部カチン州で武装勢力カチン独立軍と政府が対立した ANN WANG-REUTERS

<スーチーらが軍に拘束され、市民は抗議の声を上げるが、ロヒンギャなど少数民族にとっては「権力者がNLDでも軍でも関係ない」>

2月1日にミャンマーで起きた軍事クーデターに対する市民の平和的な抗議行動には心から敬意を表するが、これだけは指摘しておきたい。過去の軍隊による暴挙、とりわけ2017年のロヒンギャ(西部の国境近くに住むイスラム教徒の少数民族)弾圧に際してはこれほどの反応が見られなかったという事実だ。

そのことを断罪するつもりはない。あの国で多数派を占めるビルマ人はロヒンギャに偏見を抱いており、彼らをバングラデシュからの不法移民と(政府の主張どおりに)見なしている。遠い国境地帯で起きた事態より、地元での暴挙に市民が強く反応するのは自然なことだろう。

しかし筆者には、この落差がミャンマー政治の核心を貫く分断の縮図に見える。今回のクーデターに至る一連の事態はビルマ人主導の国家建設を目指す長年にわたる闘いの副産物と言える。だが、それとは別にこの国では、1948年の独立以来、無数の少数民族による自治権獲得の闘いが続いているのだ。

米ワシントン大学のメアリー・キャラハンは自著で、ミャンマーにおける長年の軍事独裁は地方部での「何百年にもわたる国家建設の構造的問題」を解決しようとする試みとして説明できると論じた。旧ビルマ王国の支配が周縁部にまで及んだことはほとんどなく、英国統治下でも実質的な自治が維持されていた。

国民民主連盟(NLD)と軍部の微妙な均衡で成り立った文民政府の下でも、地方へのアプローチに変化はなかった。どちらも少数民族の地域では土地の収奪と住民の強制退去を進め、少数民族の武装組織には高圧的で無神経な態度を取ってきた。

マイノリティは蚊帳の外

NLDの政治家やビルマ人の一部が少数民族の権利を擁護してきたのは事実だが、周縁部に住む少数民族から見れば、NLDも軍もビルマ人による支配を自分たちに押し付ける国家機関にすぎない。

今回のクーデターの直後、カレン民族同盟の副代表であるソークウェフトーウィンは、10年間の「いわゆる民主主義」から少数民族はほとんど何も得ていないと述べた。「軍がクーデターを起こしても起こさなくても、権力は彼らの手中にある。少数民族には、権力者がNLDでも軍でも関係ない」

ロヒンギャ問題に対するNLDの対応を見ればいい。2019年末にハーグの国際司法裁判所で行った証言で、アウンサンスーチーは「ロヒンギャ」という言葉を口にすることさえ拒否し、彼らは少数民族ではなく、バングラデシュからの違法な「侵入者」であるという軍の(そして多くのビルマ人の)見解を暗黙のうちに支持した。

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