最新記事

バイデン 2つの選択

バイデン政権はブルーカラーを失望させたオバマの過ちから学べるか

LEARNING FROM OBAMA’S FAILURES

2021年2月4日(木)18時30分
デービッド・シロタ(ジャーナリスト)

オバマ政権を支えたバイデンは共和党への融和路線も踏襲するのか(2008年) JOE RAEDLE/GETTY IMAGES

<融和路線で共和党に譲歩し過ぎれば大胆な改革は実らず、失望感が広がり、「第2のトランプ」が必ず登場する>

(本誌「バイデン 2つの選択」特集より)

ジョー・バイデンが「希望と変化」を掲げる政権の副大統領に就任したのは12年前のこと。当時と同様、晴れの舞台で宣誓し新大統領となった今、「希望」はほぼ死語と化し、当時以上に「変化」が求められている。
20210202issue_cover200.jpg
社会を変容させるような大胆な改革を求める人たちは、その要求を実現できるめったにない機会を得た。だが過去にそうだったように彼らはまたもや挫折を味わうかもしれない。

なぜか。バイデンが矛盾するメッセージを発信し続けているからだ。

今ほど失敗が許されない状況はまずない。既にアメリカ人の800人に1人が新型コロナウイルス感染症で亡くなっているが、感染拡大は一向に収まらない。株価を見ると米経済は好調のようだが、立ち退きや破産、飢えに直面している困窮者は数知れない。退任を控えた大統領が暴動をけしかける前代未聞の事態が起き、アメリカの民主主義はかつてない危機に見舞われている。

今や価値観の対立と政治的な対立、現実のものとなった内戦の危機が濃霧のように立ち込め、前途は見通せない。確実に言えるのはバイデンが岐路に立っていること。どちらに向かうか本人も決めかねているようだ。

かつての上司バラク・オバマのように財界の要望に応じつつ、超党派の合意づくりと譲り合いを追求するか。あるいは寡占企業と戦い、ファシズムを打ち負かし、富裕層を敵に回す政策もいとわなかったフランクリン・ルーズベルトの道をたどるか。

両方は選べない。オバマ政権の教訓は、融和路線を取りつつ、大胆な改革を推進することは不可能だ、ということである。

オバマは「大胆な富の再分配を目指す外国生まれの社会主義者」という虚偽のレッテルを貼られつつ、2008年の大統領選で勝利し、今と同様、社会が分断され景気が冷え込んだ状況で国の舵取りをすることになった。当時のアメリカはイラク戦争がもたらした心的外傷に苦しみ、金融危機で経済はガタガタだった。

オバマはいわばルーズベルトと同じような状況で大統領に就任したのだ。だが彼はその機会を資本と労働の力関係を是正する「新たな契約」、つまりニューディールのために利用するのではなく、ただ現状を維持しようとした。

例えばオバマは前任者の銀行救済措置を引き継いだ。後にそれを打ち切ったのは、困窮する住宅所有者を救済するためではなく、財政赤字の削減のためだった。景気刺激策を推進したが、規模が小さ過ぎたため景気回復には恐ろしく時間がかかった。

目玉政策である医療保険制度改革も、共和党がまとめた案に多少リベラル色を付けた程度。共和党との全面対決を覚悟で「メディケア・フォー・オール」、つまり国民皆保険を実現しようとはしなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネパールで「Z世代」デモ、19人死亡 SNS禁止に

ワールド

イスラエル、米のガザ停戦案受け入れ

ビジネス

インドネシア新財務相、8%成長も「不可能ではない」

ビジネス

インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相を解任、後任にプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 3
    石破首相が退陣表明、後継の「ダークホース」は超意外なあの政治家
  • 4
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 5
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 6
    コスプレを生んだ日本と海外の文化相互作用
  • 7
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 8
    「日本語のクチコミは信じるな」...豪ワーホリ「悪徳…
  • 9
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 10
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 9
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 10
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中