最新記事

中国

イギリスのCPTPP加盟申請は中国に痛手か?

2021年2月15日(月)11時41分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

要するにイギリスの紳士淑女が嫌った「塩素消毒したネズミの毛入りの鶏肉」に関して、アメリカが譲歩するか否かということである。たかが鶏肉、されど鶏肉だ。

イギリスは、今度はアメリカに跪(ひざまず)く必要はなくて、アメリカに跪かせる側に立つことができる。その点は、誇り高きイギリスにとっては悪い気分ではないだろう。

結果、アメリカが折れて、仮に他のメンバー国もアメリカを認めて、アメリカがCPTPPに戻ったとすれば、中国を除いて大きな経済圏ができるので、米英ともに得をしたことになる。この場合、中国は完全に締め出されることになるだろう。

しかし逆にアメリカが、「そんな屈辱的な譲歩はしない」としてCPTPPに戻ろうとしなかった場合、あるいはアメリカ国内の白人貧困労働者層の反対を受けて戻ってこなかった場合を考えてみよう。となると現状でCPTPPの経済規模は約10 兆ドルで世界シェアの約13%に過ぎないので、米・中という大きな経済体の前では影が薄い。中国がもし、「俺を入れないようにしようというのなら、入ってやらないよ」と逆方向を向くかもしれない。となると、中国を入れてでもCPTPPの存在を強化させたいという願望が、もしかしたらメンバー国から出てくるかもしれない。

中国はどう考えているのか――中国問題グローバル研究所の中国代表に聞いた

その辺りはメンバー国の現状や意識調査をしなければならないので、今回はあくまでも、「中国はイギリスのCPTPP加盟申請をどう見ているか」にテーマを絞るしかない。 そこで、シンクタンク中国問題グルーバル研究所の中国側代表である孫啓明研究員(北京郵電大学経済管理学院教授)に、中国の本音を聞いてみた。以下に示すのは孫啓明教授の回答である。

――簡単に述べるならば、二点ほど挙げることができます。

先ず、現在の世界情勢から見た時に、いかなる国あるいは経済組織も、米中という二つの大国のパワーゲームのツールになっており、どの国も経済組織も中国とアメリカから逃れることはできません。中国とアメリカが互いにパワーゲームの切り札として、それぞれ一つの経済組織を指導するか、あるいは中米それぞれがいくつかの経済組織の中に同時に入っているかのいずれかの形式が考えられます。実際、CPTPPはそのいずれでもなく、日本は本当の主人公ではありません(筆者注:日本がCPTPPの中で経済規模が一番大きいと言っても、それは暫定的なものに過ぎず、本当の主人公はアメリカだ)。イギリスの現在の経済規模と世界での地位から考えても日本に追いつくだけの力はないので、イギリスがCPTPPに入ったところで別に気にする必要はないし、中国は、日英などがアメリカに追随して中国を包囲しようと試みても、気にしていません。CPTPPは米中パワーゲームの場でしかないのです(筆者注:イギリスがCPTPPに入るか否かは何の関係もなく、アメリカが入るか否かだけが問題だ、という趣旨)。中国にとっては、RCEPがあれば十分にアメリカと対抗できます。この二つの経済組織は、基本的に拮抗しています(筆者注:RCEPの規模は世界のGDPや貿易額・人口の約30%を占める。CPTPPの規模を遥かに上回り、世界第二の経済大国である中国が入っている)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 27年6月適用開始=

ビジネス

米耐久財受注、10月は2.2%減に反転 コア資本財

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ビジネス

米GDP、第3四半期速報値は4.3%増 予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 6
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 7
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 8
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中