最新記事

大統領弾劾

トランプ弾劾裁判、弁護団が展開する8つのトンデモ反論

TRUMP’S CRAZY DEFENSES

2021年2月9日(火)18時20分
ジェレミー・スタール

magw210209_Trump2.jpg

トランプの個人弁護士ジュリアーニはバイデンの勝利報道後もトランプの勝利を主張 EDUARDO MUNOZ-REUTERS

トンデモ度7位「私はやっていない」

人気アニメ『ザ・シンプソンズ』の決まり文句「僕、やってない」から借りてきたような主張だが、まあ悪くはない。

もちろん私たちは、トランプが暴力的で怒れる群衆に向かって、議事堂に行って「死に物狂いで戦え」、「このままだと諸君の国が奪われるぞ」、「(弱腰の共和党議員に)この国を取り戻すのに必要な誇りと大胆さをくれてやれ」などと呼び掛けるのを見てきた。その暴徒たちが議事堂に乱入し、現職副大統領(当時)のマイク・ペンスや下院議長のナンシー・ペロシに死を宣告するのも。

それでも弁護団としては、法律解釈の問題として、被告人トランプの発言や行為は犯罪として定義される教唆・扇動には当たらないと主張できる。それ故、弁護団は「第45代大統領が合衆国に対する反乱なり謀反に加担したことを否定する」のだ。

また弁護側の主張によれば、トランプの発言は、いわば比喩的なものでしかない。つまり、「死に物狂いで戦え」も「このままだと諸君の国が奪われるぞ」も、あの日に議事堂で起きた騒ぎとは関係がなく、ただ「一般論として選挙の安全を守ることの重要性を強調しただけであり、そのことはスピーチの録音からも明らか」だと言う。裁判ではもっと緻密な論証が必要だろうが、まあトンデモ度も許容範囲だ。

トンデモ度6位「言論の自由の範囲内」

1月6日のトランプ発言は教唆・扇動に当たらず、従って言論の自由を保障した合衆国憲法修正第1条によって守られるという主張だ。

この点に関し、弁論趣意書は高尚なレトリックを駆使している。「アメリカの全ての国民と同様、第45代大統領(の発言)は合衆国憲法修正第1条によって守られている。実際、前大統領はアメリカが憲法や権利章典のような法的文書において、民意に反する言論も政府による報復から守られると特記している点で世界に例を見ない国だと信じ、そのように主張している。もしも修正第1条が、政府が現時点で民意に沿うと判断した言論のみを保護するものであるならば、それは何を保護することにもならないだろう」

どうやら弁護団としては、トランプは憲法で保障された範囲内の政治的発言をしているにすぎず、本気で政府の転覆を試みたわけではないと言いたいらしい。だが下院共和党で序列第3位のリズ・チェイニー議員も指摘しているように、この主張はナンセンスだ。

チェイニー議員は言う。「アメリカの大統領が暴徒を呼び集め、今回の議会攻撃をあおった。その後に起きた全てのことは大統領自身の責任だ。この大統領がいなければ何も起きなかった。直ちに強制的に介入して暴力を止めることもできたはずなのに、そうしなかった。合衆国大統領の就任の誓いが、これほど裏切られたことはかつてない」

トランプの言動があの暴動を引き起こしたことは明らかで、言論の自由とは関係ない。ミズーリ大学のボーマンも言うとおり「チェイニー議員は文句なしに正しく」、トランプは「モンスター」だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中