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感染症対策

韓国、コロナ規制違反の通報に褒賞金 相互監視への批判やフェイク通報も

2021年1月19日(火)17時40分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネーター)

国民の多くから批判の声

賞金が貰えるとあって、コパラッチたちの申告は白熱したものの、大部分の市民たちはこの制度を冷ややかな目で見ていたようだ。

大統領府の公式サイト内にある国民請願掲示板には、「お互いを監視する褒賞金制度を中止してください」という請願が登場し話題となった。

韓国国民からは、「ここは北朝鮮ですか? これでは互いに監視しながら生きなければならない」「市民同士をお互いに監視させて合い、疑心暗鬼を助長している」「こんなことにお金をばら撒くよりも、もっと使うべきことがあるだろう」という意見も多い。また、コロナのために経営が苦しいお店の立場も十分理解できると同情的だ。

変異した悪性コパラッチ

そして、世論の批判ももちろんだが、コパラッチの急増と共に、賞金目当てで嘘の申告をする悪性コパラッチが問題視され始めた。

レストランなどで、わざと営業時間内に客が店を出られないように仕組んだり、5人以上が集まっているかのように演出したような写真が多く申告された。また、写真では判断しにくいあやふやなものも多かったという。実際、これまで一番多く申告が寄せられた12月の件数のうち、約半分以上が判断不可という結果となっている。

また、薬局では昨年の11月13日からマスク着用義務が課せられていたが、薬局内の薬剤師や店員が一瞬でもマスクを外した、または外れてしまった瞬間を盗撮しようと狙うコパラッチも多かったという。これを問題視した韓国薬剤師会は、今月4日全国の薬剤師へ急遽コパラッチに対する注意喚起のメールを送信する事態となった。

批判殺到で褒賞金取りやめへ

このような騒動が増えるにつれ、店側の抗議が相次ぎ、韓国政府は今月7日、ついに報酬金制度を廃止することを発表した。制度廃止について、パク・ジョンヒョン行政安全部安全疎通担当官は会見で、「市民たちが報酬を目的に申告していたとは思わないし、報酬狙いの悪性コパラッチを増幅させていたという意見には同意できない」と世論の反対意見を否定したものの「自営業者たちにストレスを与えていたという点を考え、感染者数を見ながら、もう少し良い申告誘引対策を考える」と語っている。ちなみに、報酬金は無くなったが、今も申告はオンラインで行えるそうだ。

これまでドライブスルー形式の検査など様ざまなアイデアで、感染者が増えてもその都度上手く押さえつけてきた韓国の新対策だったが、今回は失敗に終わってしまった。今はお互い思いやる気持ちが大切な時期である。一人ひとりが防疫対策を守ることはもちろん大事だが、そのせいで不信感を増幅させてしまうのでは国民の反感を買うのは当たり前だ。

しかし、思いついたアイデアをすぐに取り入れ、撮影から申告までアプリでワンタッチで投稿できるシステムや、結果が1週間という速さで返信されるシステムなどをすぐに実現させてしまう韓国のスピード感だけはさすがだと言わざるを得ない。

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