最新記事

インド

トイレを作っても野外排泄をやめない男たち... インドのトイレ改革「成功」の裏側

2020年10月12日(月)11時10分
佐藤大介(共同通信社記者)

調査にあたったr.i.c.e.の研究員、ナザール・カリドによると「今も野外排せつを続けていると答えた人のうち、およそ半数は自宅にトイレがある」という。そういえば、確かにアンダンプラ村のサイニも、自宅にトイレがありながら使っていなかった。

「トイレの清掃や管理が面倒との理由で、野外で用を足す方が楽で便利と思ってしまうのです。そうした人々の考え方を変えない限り、野外排せつはなくなりません」

カリドの指摘は、インドの農村部を中心に、長年続いてきた外で用を足す習慣をなくすのが、いかに難しいかを表している。

だが、そうした実態をインド政府が知らなかった、というのも考えづらい。少なくとも、州政府(インドでは州ごとに選挙で州首相が選出され、議会運営を行う)レベルでは足元の状況について、詳しく把握していたと考えられる。r.i.c.e.の調査からもわかるように、その実態はあまりにもあからさまで、容易に知ることができるからだ。

依然として野外排せつはなくならない。ところが、「スワッチ・バーラト」の達成期限は刻一刻と迫ってくる。そうした中、難局を乗り切るための秘策を思いついた切れ者が、政府職員の中にいたのだろう。

「いつの間にか『スワッチ・バーラト』の達成は、トイレをどれくらい設置したかという『数』に重点が置かれるようになった。トイレを増やせば、人々が野外で用を足さなくてもいい環境が整う。そうすれば、誰もが自ずとトイレを使うはずだ。それは即ち、野外排せつの根絶を意味する。州政府や中央政府は、そのように解釈するようになったのです」

カリド研究員の説明は、アンダンプラ村の村長から聞いた話と重なった。

indiatoiletbook20201012-cover.jpg

13億人のトイレ
 ――下から見た経済大国インド』
 佐藤大介 著
 角川新書

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米加州の2035年ガソリン車廃止計画、下院が環境当

ワールド

国連、資金難で大規模改革を検討 効率化へ機関統合な

ワールド

2回目の関税交渉「具体的に議論」、次回は5月中旬以

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米国の株高とハイテク好決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中