最新記事

北朝鮮

核武装しても不安......金正恩が日本の「敵基地攻撃能力」を恐れる本当の理由

2020年9月25日(金)15時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮は日本政府内で「敵基地攻撃能力」が議論されていることを警戒している KCNA/REUTERS

<北朝鮮は強力な独裁体制を敷いているだけに、独裁者を失えば体制崩壊に直結しかねない>

北朝鮮が、日本政府の「敵基地攻撃能力」を巡る動向に警戒感を募らせている。北朝鮮国営の朝鮮中央通信は17日、自衛隊が北海道で大規模な実働演習を行ったことや、日本政府内で「敵基地攻撃能力」についての論議が行われていることなどに対し、「日本の軍国化は戦争を視野に入れた最終段階に至った」とする論評を配信した。同通信が日本非難の論評を出したのは、菅義偉内閣の発足後はこれが初めてだった。

さらに、同通信は19日付の論評で、日本が「地上配備型迎撃システム『イージス・アショア』の配備計画の撤回による『防衛空白』にかこつけて武力増強によりしつこく執着している」として、日本の戦力増強を非難した。

北朝鮮が日本の軍備増強を非難するのはこれが初めてではない。ただ「敵基地攻撃能力」は当面、北朝鮮を主な対象として検討されるだけに、同国も日本に対する非難や主張、要求を具体化させる可能性もある。

19日付の論評は、日本が「弾道ミサイルに対応するための専門艦船を建造し、2022年まで射程500キロ以上に及ぶ打撃ミサイルを装備しようとしている」と言及。これは「日本が唱える『敵基地攻撃能力』保有の輪郭をさらけ出したもので、地域の平和と安定を破壊する危険極まりない侵略戦争準備策動」だと非難した。

日本政府は、秋田と山口への配備を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の代替策として、弾道ミサイル迎撃に特化した専用艦建造を有力案とする方針を米側に伝達したとされる。

また航空自衛隊は2022年までに、射程約500キロのノルウェー製対地・対艦ミサイル「JSM」を取得するという。JSMはF35ステルス戦闘機の胴体内部に搭載でき、レーダーに探知されにくいF35のステルス性を生かした対艦・対地攻撃が可能となる。日本政府は離島防衛などで敵の脅威圏外からの対処を取得の目的としているが、「敵基地攻撃能力」の保有に踏み切った場合、JSMが北朝鮮国内のミサイル発射台を叩く手段として用いられる可能性はきわめて高い。

そもそも、北朝鮮は韓国軍がF35や、JSMと同種のミサイルの導入を進めていることを猛烈に非難してきた。核ミサイルを実戦配備したと見られる北朝鮮の軍事力は、その点だけで見れば日本や韓国にとって深刻な脅威だ。核さえあれば、通常兵器しか持たない日韓に、北朝鮮はそれほど気を使う必要はないように思えるかもしれない。

だが、北朝鮮には致命的な弱点がある。他ならぬ、金正恩党委員長だ。北朝鮮は、現在の世界では類を見ない強力な独裁体制を敷いているだけに、独裁者を失えば体制崩壊に直結しかねない。ステルス戦闘機が、北朝鮮の防空網にまったく引っかかることなく金正恩氏の居場所に接近できるならば、それはきわめて深刻な脅威なのだ。

<参考記事:韓国専門家「わが国海軍は日本にかないません」...そして北朝鮮は

日本の「敵基地攻撃能力」の論議は、そんな弱点を抱える北朝鮮を強く刺激する可能性がある。今後の北朝鮮の反応が興味深い。

<参考記事:「日本は高度に軍事大国化」...北朝鮮が「いずも」空母化で見せる不安

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

カーライル、保有する映像制作会社株を日本テレビに譲

ビジネス

村上氏長女ら、フジ・メディア株を大量保有 5.76

ビジネス

S&P、ホンダをBBB+に格下げ 大規模損失による

ビジネス

利上げは毎会合で適切に判断、中東情勢による経済影響
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 3
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 8
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 9
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 10
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中