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中国はなぜ尖閣での漁を禁止したのか

2020年8月20日(木)18時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

それでも大きく分ければ、2017年5月からは一層広い関連地域で始まったということはできる。

たとえば2017年5月4日のこの漫画には「敏感海域で漁をしたら、どうなるか分かってるね?」として公安が漁師を諭す内容がさまざま描かれている。

「逮捕されて、牢屋に入れられ、罰金を払って、それまでの稼ぎが水の泡になるだけじゃすまないんだから」と、子供にでも分かるように説明されているのだ。

また2017年5月27日の福建省の泉州市にある地方政府のウェブサイト「泉州網」、泉州市政府の海洋漁業局が「漁船が敏感海域で操業することを厳禁する」規定を地元政府が出したことを報道している。違反者にはどれだけの処罰が与えられるかに関しても、こと細かに書いている。揉め事が起きて相手国政府に捕まっても自己責任で保証しなければならず、政府はそのような揉め事に巻き込まれるのは「ごめんだ」という姿勢が滲み出ている。

広東省のケースも報道されており、これは台湾との揉め事があったことを明らかにし、そのような民間人(漁師)の身勝手な行動により、中国政府(大陸=北京政府)が台湾との交渉において不利な立場に置かれるようなことを警戒している。

2016年5月には「一つの中国」を認めない蔡英文総統が誕生しているので、台湾海峡はより「敏感海域」になった。民間人の迂闊な行動が、国家を巻き込み、国家としての戦略(あるいは交渉)を乱すことを習近平政権は非常に嫌がっているのである。

こういった動きは2018年も2019年も同様に展開されているが、今年福建省などで発布された「敏感海域」漁労禁止令に関して、たとえばカナダの中文網は8月16日「福建は漁民にできるだけ釣魚島海域に行くなと命じている」という見出しを日本の報道を引用して銘打ちながら、一方では記事の中で台湾の戦略専門家の「中国軍が何らかの機会を利用して奇襲攻撃をする可能性があり、台湾は油断してはならない」という警告を載せている。

台湾海峡を巡って緊迫する米中軍事対峙

8月9日、アメリカのアレックス・アザール厚生長官が台北を訪問し、10日に蔡英文総統と会談したが、それを挟んで台湾海峡では米中両軍が非常に緊迫した形で対峙していた。

たとえば中国共産党管轄下の中央テレビ局CCTVは8月14日、「(中国人民)解放軍が台湾海峡で軍事演習をすると宣言した途端、アメリカの空母は東(シナ)海から逃げ出してしまったぜ」という特集番組を組み、繰り返し報道した。

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