最新記事

中国

中国はなぜ尖閣での漁を禁止したのか

2020年8月20日(木)18時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

2010年の尖閣周辺における中国漁船接触事件で中国各地で起きた反日デモ Aly Song-REUTERS

中国の禁漁期間が明けたが、地元当局は「敏感海域」への接近を禁じた。実は禁止令は数年前から出されており、「敏感海域」には台湾が含まれている。今年は特に台湾海峡を巡る米中両軍のつばぜり合いが無視できない。

「敏感な海域」での漁を禁じた地元当局

中国政府が東シナ海周辺に設定していた3ヵ月間の禁漁期間(5月1日12時~8月16日12時)は、8月16日正午12時(中国時間)に解禁となった。しかし地元当局は解禁に当たり、「敏感な海域」に行ってはならないという指示を出した。

地元当局というのは主に福建省のさまざまなレベルの行政区画の政府であることが多く、浙江省や時には広東省が入ることもある。

また「敏感海域」というのは「政治的にデリケートで問題を起こしやすい海域」という意味で、日本の尖閣諸島(中国大陸では釣魚島)だけを指しているわけではなく、台湾海峡を指している場合もある。

今般、漁民らが日本メディアの取材に対して「釣魚島周辺30海里(約56キロメートル)以内に入ってはならないと当局から言われている」と言ったと報道されていることもあり、日本としては自ずと尖閣諸島に焦点が当たる。

周辺漁民の教育レベルは必ずしも高いわけではないので、いつも地元当局による「敏感海域に行って漁労することを厳禁する」という横断幕が掲げられているのが特徴だ。

今年の「敏感海域」に関する中国国内あるいは世界の中文における報道は、ほとんどが日本のメディアからの引用で、こちらも日本の読売新聞の報道を引用している。

敏感海域での漁労禁止令は2017以前から

実は禁漁解禁時に「敏感海域に行って漁労してはならない」という禁止令は、そう明確な形ではないにせよ2013年にも見られる。たとえば2013年5月28日の福建省福州市にある連江県の地方紙「連江新聞」台湾海峡という「敏感海域」で事件が発生しているので、そこには漁に出かけてはならないという指示を出している(オリジナルサイトにはアクセスできないので、リンク先はGoogleのキャッシュである)。

台湾海峡での揉め事が絶えなかったからだが、習近平政権になってからは馬英九政権との間での平和統一を狙っていたため、地元が動いたのだとみなしていい。

一般に中国では、禁漁期間は中国中央政府が発布するが、解禁後にどこで漁をして良いかいけないかに関しては、地方政府、それも非常に細かく分かれた行政区画レベルで禁止令が出されるので、それぞれの地域の情報を確認するしかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中