最新記事

デモ

タイ民主化求める若者デモ 政府はコロナ対策の規制も活用して締め付け強化

2020年8月7日(金)20時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

日本で報じられた『とっとこハム太郎』だけでなく8月には『ハリー・ポッター』のコスプレをしてのデモも行われた。REUTERS/Athit Perawongmetha

<アニメの替え歌によるデモが日本でも話題になったタイ。だがその実態は深刻で、「とっとこ」と解決できそうにない──>

「微笑みの国」として知られるタイで今、若者や学生などの微笑みに翳りが生じようとしている。7月からバンコク市内や一部地方都市で続く学生を中心とした若者による反政府デモが、表現の自由や王政権限の縮小などタイ社会の基盤を揺るがしかねない運動に発展する可能性が生まれているからだ。

そしてこうした動きを警戒するプラユット政権が若者のデモに理解を示す一方で、デモ主催者への事情聴取を続けるなど「アメとムチ」の対応で揺さぶりをかけ、新型コロナウイルスの感染拡大防止策を適用して「3密状態を作りだしているデモを保健衛生上のルール違反とする」などのあの手この手で締め付けを強化しているのだ。

デモの若者の間では、国際社会や人権団体から批判の的となっている国王や王族への批判を一切許さない「不敬罪」への反発も拡大し、「不敬罪撤廃」の気運が「王族制度そのものへの疑問」に繋がりかねないとの警戒感も強まるなか、タイ社会に変化の予兆を感じ取る人々も増えているという。

プラユット首相、若者に「社会の混乱を煽るな」

プラユット首相は8月4日、バンコク市内などで反政府、王室改革などを掲げたデモを組織している運動家らに対して「王族に関する問題を提起して国民に運動を呼びかけることは社会の混乱を扇動することに他ならない」として厳しく取り締まる姿勢を明らかにした。

「政府は今多くの重要課題に取り組んでおり、この時期にさらに事態を悪化させるようなこと、社会の混乱を煽るようなことは巖に慎んでほしい」と4日の定例閣議後にプラユット首相は考えを明らかにして、社会的混乱につながる動きに釘をさした。しかしその一方で「タイ社会の将来を考えている若者には心を配っている。より多くの声を聞く準備があるし、若者には集会を開く権利もある」とも述べて一定の理解を示している。

目指すは「王政廃止ではなく改革」

約200人が参加した3日のデモでは人権活動家で弁護士のアノン・ヌンパ氏(35)が「国家の元首としての国王と共に民主主義を実現したいが、現在の国王の権力はシステムが規定する以上に強大である。国王、王族への敬意をもちながらもこうした問題を真剣に考え、誰もが自由に意見を公に言うことで問題を解決したい」と演説。参加者に王政制度の見直しや言論の自由の拡大を呼びかけた。

アノン氏は「我々は王政の廃止を求めている訳ではなく、あくまで改革したいだけである。それも早急に。その目的は国王をはじめとする王室と国民の共生にある」との立場を繰り返して強調。デモや運動が「反国王・反王室」という過激な目的ではないことを懸命に印象付けた。

こうした主張の背景には最高刑が禁固15年という厳しい「不敬罪」の存在がある。


【話題の記事】
・コロナ危機で、日本企業の意外な「打たれ強さ」が見えてきた
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・がんを発症の4年前に発見する血液検査
・インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フランス、米を非難 ブルトン元欧州委員へのビザ発給

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡・20人負傷 ガ

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 

ワールド

アングル:トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中