最新記事

中東

【レバノン大爆発】日頃の戦争を上回る最大の悲劇に団結する中東諸国

Foe Factions U.S. and Israel, Syria and Iran Offer Lebanon Aid After Blast

2020年8月6日(木)18時15分
トム・オコナー

いまだ被害の全容もわからない首都ベイルート港の爆発跡(8月5日) Mohamed Azakir-REUTERS

<レバノンのシーア派武装組織ヒズボラをテロ指定するアメリカから交戦中のイスラエルまでが次々と支援を表明。狙いは影響力の増大か>

8月4日にレバノンの首都ベイルートで大規模な爆発が発生したことを受けて、一方ではシリアとイラン、もう一方ではイスラエルとアメリカという、対立関係にある複数の勢力がそれぞれレバノン政府に支援を申し出ている。

レバノンの長年の盟友であるシリアのワリード・ムアレム外相は5日、レバノンのシャーベル・ワハビ新外相と話し、弔意と団結の意を表明した上で「可能な限りの支援を提供する意思」を伝えた。爆発はベイルートに大きな被害をもたらし、死者は130人以上、負傷者は数千人にのぼっているが、これはまだ早い段階の推定値にすぎず、現在も行方不明者の捜索が続けられている。爆発が起きた(原因はまだ分かっていない)港湾地区から立ち上った煙は、約80キロメートル離れたシリアの首都ダマスカスにまで到達している。

シリア外務省の公式発表によれば、前任者の辞任を受けて3日に外相に就任したばかりのワハビはムアレムの申し出に対して「両国の真の関係を反映する友愛に感謝を表明した」ということだ。外相同士のやり取りに先立ち、4日にはシリアのバシャル・アサド大統領がレバノンのミシェル・アウン大統領に電話をかけている。

「交戦中」のイスラエルも支援表明

20世紀前半に共にフランスからの独立を果たしたレバノンとシリアには、歴史的に深いつながりがある。1970年代にレバノンで内戦が勃発した時には、レバノン難民がシリアに流入し、シリアで2011年に内戦が始まった時には大勢のシリア人がレバノンに渡った。両国共通の仇敵が、領土をめぐる争いで大勢のパレスチナ難民を出しているイスラエルだが、今回の爆発に際しては、そのイスラエルの軍さえもが「今は対立を超越すべき時だ」として、レバノンに人道支援と医療支援の提供を申し出た。

レバノンもシリアも、厳密には現在イスラエルと「交戦中」だ。イスラエルは、同国とレバノン・シリアが領有権を争う地域で越境攻撃を受けたことへの報復として、この3週間だけでも両国内の複数の標的を攻撃してきた。イスラエルはこれらの越境攻撃について、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラをはじめ、中東内外に民兵組織のネットワークを持つイランとのつながりを指摘している。

そのイランのジャバド・ザリフ外相もまた、ベイルートの爆発直後にソーシャルメディア上で哀悼の意を表明。4日、ツイッターに「イランは必要なあらゆる方法で支援を提供する準備ができている」と投稿し、5日にはワヒバとも電話で話した後、レバノンの「災害救助を支援するために、仮設病院のためのチームと医薬品を現地に送る」と発表した。

<参考記事>ゴーン逃亡のレバノンが無政府状態に、銀行も襲撃される
<参考記事>1982年「サブラ・シャティーラの虐殺」、今も国際社会の無策を問い続ける

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井物産、26年3月期は14%減益見込む 市場予想

ビジネス

エアバスCEO、航空機の関税免除訴え 第1四半期決

ビジネス

日銀、無担保コールレート翌日物の誘導目標を0.5%

ワールド

日韓印とのディール急がず、トランプ氏「われわれは有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中