最新記事

地球

地磁気が異常に弱いエリアが南大西洋を北西に移動しながら2つに分裂

2020年8月20日(木)17時15分
松岡由希子

地磁気が異常に弱い南大西洋異常帯が北西に移動している...... NASA Goddard-YouTube

<南米から南大西洋にわたって「南大西洋異常帯(SAA)」と呼ばれる地磁気が異常に弱いエリアが広がっている......>

地磁気は、地球の大気や水を宇宙空間に拡散するのを防ぎ、地表に降り注ぐ太陽からの荷電粒子や宇宙線を遮る、いわば「地球の保護シールド」だ。地下1800マイル(約2896キロメートル)の「外核」で液体金属が熱対流して電流が生じ、この電流によって地磁気が生成されている。そのため、地磁気の極は地球の極にぴったりと合っているわけではなく、安定しているわけでもない。そして、その地磁気が異常に弱いエリアが広がり注目を集めている。

【参考記事】北磁極の移動速度が加速している......シベリアに向けて移動し続ける

アフリカの南西部にあらわれ、2つに分裂しつつある

南米から南大西洋にわたって「南大西洋異常帯(SAA)」と呼ばれる地磁気が異常に弱いエリアが広がっている。現時点では、この南大西洋異常帯による地上への影響は確認されていないが、地磁気が弱いために太陽からの荷電粒子などが地表のより近くにまで到達することで、人工衛星の観測機器などに影響をもたらすおそれはある。

010-nasa-south.jpg

Division of Geomagnetism, DTU Space


たとえば、地上400キロメートルの地球周回軌道上にある国際宇宙ステーション(ISS)のレーザー観測装置「ジェダイ(GEDI)」は、南大西洋異常帯によって月に1回程度、検知器がピっと鳴り、その動力盤がリセットされるという事象が起こっている。

南大西洋異常帯はゆっくりと移動し、形態を変えている。1992年に打ち上げられたアメリカ航空宇宙局(NASA)の人工衛星「SAMPEX」が20年にわたって収集したデータをNASAの太陽系物理学者アシュリー・グリーリー研究助手らが分析した結果、「南大西洋異常帯は、ゆっくりと北西方向へ移動している」ことがわかった。

また、欧州宇宙機関(ESA)の地磁気観測衛星「SWARM」が収集したデータを分析した研究成果によると、この5年でアフリカの南西部に最小強度の地磁気のエリアが新たに現れ、南大西洋異常帯が2つに分裂しつつあるという。こうした現象が、直近では77万年前にあったとされる地磁気の反転の引き金か先駆けではないかと懸念する声もあるが、今のところ何を意味するのかは不明だ。

地球の核やその動力学が地球に与える影響についての解明もすすむ

NASAでは、南大西洋異常帯を継続的に観測し、将来的な変化を予測することで、人工衛星などへの影響を軽減するための備えにつなげたい考えだ。

NASAゴダード宇宙飛行センター(GSFC)の地球物理学者テリー・サバカ研究員は「南大西洋異常帯はゆっくり動き、変化しつつある。そのため継続的に観察し続けることが重要だ。これによって、モデル化や予測が可能となるだろう」と一連のミッションの意義を強調している。また、南大西洋異常帯の変化を観察することで、地球の核やその動力学が地球に与える影響についての解明もすすむのではないかと期待が寄せられている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中