最新記事

香港の挽歌

香港デモ強硬派、ある若者の告白「僕たちは自由を守るために悪魔になった」

BURNING FOR FREEDOM

2020年7月22日(水)16時30分
ニューズウィーク日本版編集部

母には知らせていないが、ケンは自分が姿を消したときに備えて、その答えをしたためた手紙を引き出しにしまっている。「僕は香港市民だ。香港には民主主義と自由を享受してほしい」で始まる手紙には、こう書かれている。「生きている間に目標を達成できないかもしれないし、死はとても怖い。でも少なくとも僕は、この贈り物を子孫に残せる」

ケンと仲間は数日おきにティムのレストランに集まり、計画を練った。当初は遠足気分で楽しく語り合ったが、数カ月もたつと投げやりに報復を叫ぶ空気が広がっていった。

中国政府に勝てないなら、香港を破壊することで中国にダメージを与えてやろう、と彼らは考えた。「共産党よ、俺たちが消えるときはおまえも道連れだ」と、ケンは言う。そんな彼らの言葉は、200倍の人口を持つ中国相手に立ち上がった香港市民にも広く受け入れられている。

ケンと仲間たちはカクテルを手に作戦を練った。「最大限のダメージを与え、中国軍に行動を起こさせたい」。ティムがそう言うと、デニースやフィフィから拍手が起こった。

香港を破壊して敵を道連れに

作戦の中核は、アメリカに香港という「武器」を与え、中国との戦いに利用させることだ。

中国が恐れるのは、香港をたたき過ぎて西側諸国に経済制裁を科され、米中貿易戦争で弱った経済がさらに悪化すること。また、景気悪化が引き金となって中国社会が不安定化する、台湾統一の夢が遠のくといった連鎖反応も予想される。つまり、彼らの作戦は威力抜群の「カミカゼ」攻撃なのだ。

憎悪と暴力が加速した結果、林鄭が9月初めに逃亡犯条例改正案の撤回を正式に発表しても、香港市民の間には「(譲歩が)小さ過ぎて、遅過ぎる」というため息が広がるだけだった。デモ隊の怒りの対象は既に警察全体と中国政府に向かっていた。

12月、警察はおよそ1万6000発の催涙弾と複数の実弾を使用したと発表。心臓付近や肝臓を撃たれた学生もいた。

11月下旬に行われた区議会選挙の投票率は過去最高の71%。18区のうち17区で民主派が勝利し、デモ隊を支持するのは一部の過激派にすぎないという指摘は一蹴された。

デモ隊が大学を占拠し、抗議運動が最も過激化した11月、ケンは再び前線に立っていた。「人間ベルトコンベヤー」で届けられるガソリン爆弾を、1日に50個以上投げたという。平和的にデモを続ける市民が多数いる一方、強硬派は香港を破壊して敵を道連れにする作戦が有効だと考えているのだ。

およそ半年後の今年5月28日、中国の全国人民代表大会(全人代)は香港国家安全維持法の導入を決めた。香港の自治と自由にとって「致命的な一撃」との批判が高まるなか、6月30日には全人代常務委員会が同法を可決。同日夜に施行された。

これを受けてドナルド・トランプ米大統領は、アメリカが香港に与えてきた特別待遇の取り消しを表明した。世界的な金融ハブという香港の地位は揺らぎ、香港から中国本土に向かう資金の大動脈も滞ることになる。トランプは中国批判を繰り返し、報復措置を取ることも公言している。

1年に及ぶ抗議運動と新型コロナウイルスをめぐる都市封鎖で傷ついた香港にとっては決定的な打撃だ。

そして、ケンの戦いも終わりを迎えた。結果は敗北だった。

(筆者は匿名のジャーナリスト)

<2020年7月14日号「香港の挽歌」特集より>

【関連記事】香港の挽歌 もう誰も共産党を止められないのか
【関連記事】香港で次に起きる「6つの悪夢」 ネット、宗教、メディア...

【話題の記事】
中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか
国家安全法成立で香港民主化団体を脱退した「女神」周庭の別れの言葉
中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで浮上する第2の道とは
台湾のビキニ・ハイカー、山で凍死

20200714issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月14日号(7月7日発売)は「香港の挽歌」特集。もう誰も共産党を止められないのか――。国家安全法制で香港は終わり? 中国の次の狙いと民主化を待つ運命は。PLUS 民主化デモ、ある過激派の告白。

20200728issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月28日号(7月21日発売)は「コロナで変わる日本的経営」特集。永遠のテーマ「生産性の低さ」の原因は何か? 危機下で露呈した日本企業の成長を妨げる7大問題とは? 克服すべき課題と、その先にある復活への道筋を探る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、米大統領の空爆停止要請受け入れ 次回3者協

ビジネス

米エクソン、第4四半期利益は予想上回る 生産コスト

ビジネス

シェブロン、第4四半期利益が予想上回る ベネズエラ

ビジネス

スイスフラン操作には一切関与せず、中銀表明 米為替
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 6
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 7
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 10
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 8
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 9
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中