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香港の挽歌

香港デモ強硬派、ある若者の告白「僕たちは自由を守るために悪魔になった」

BURNING FOR FREEDOM

2020年7月22日(水)16時30分
ニューズウィーク日本版編集部

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抗議運動が過激化し暴力が日常の光景に(2019年11月2日) TYRONE SIU-REUTERS

数週間後、誰かが投げた火炎瓶がケンの足に当たった。ひどいやけどを負い、デモ参加者をひそかに助けている医師の治療を受けた。

「炎を消そうとしたが、粘り気のある物質が燃え続けた。僕はどこかで、この作り方はすごいと喜んでいた」

ケンは自分のガソリン爆弾にワセリンや自動車用オイルなどの増粘剤を加え、炎が標的の体で長く燃えて、濃い煙の雲ができるようにした。

ケンにとってガソリン爆弾は、エスカレートする暴力の入り口だった。あるデモ参加者が、元朗の事件で妹がけがをしたから警察に復讐すると言ったときは、彼のことは知らなかったが協力を買って出た。

「僕は怒りで陶酔していた」

母への手紙に託した思い

3日後の夜、ケンは2人の若者と一緒に住宅街の警察署近くで標的を待ち伏せしていた。建物から出てきたのは、小柄で少し腹の出たTシャツ姿の30代男性。身元は分からないが、偉そうな態度だけで「敵」であることは明らかに思えた。「警察権力の一員であれば、その人物がデモ隊を攻撃したか否かに関係なく罰を受けるべきだ」と、ケンは言う。

3人は15分ほど男性を尾行した。飲食店が並ぶ通りを抜け、女性が客引きをしている怪しげな通りに入ると、主犯格の男が男性の口をタオルで覆った。ケンが相手の頭をつかみ、もう1人が腰を押さえ込む。3人はぎこちない手つきで男性を暗い裏道に引きずり込み、ケンがタオルを男性の口に押し込んだ。

男性の頭蓋骨を何度か殴打すると、ドスンというおぞましい音が響いた。助けを求めるか細い悲鳴が聞こえる。「痛みで泣いているのを見て、喜びが湧いてきた」と、ケンは言う。

その後も顔を蹴ったり、木の棒で肋骨を殴ったり、男性が動かなくなるまで肘や膝を踏み付けたり。その時、男性の口から咳と嘔吐の入り交じったような音が飛び出した。「あんな音は聞いたことがない。二度と聞きたくない」

主犯格の男は窒息死させようと提案したが、ケンは拒んだ。「顔を隠していると強くなった気がするが、僕にも良心はある。警官と違って」

口にタオルを入れたまま、うめき声を上げて転がっている血まみれの男性を残して、3人はバラバラに去り、二度とつながることはなかった。ケンは近くの海岸に服を捨て、3人のチャットグループを削除。警察の目を恐れて2晩外泊したが、誰も追ってこないので、両親の住む自宅に戻った。「人間から悪魔になり、また人間に戻るのは不思議な感覚だ」と、ケンは語った。

汗と催涙ガスにまみれたケンが抗議活動から帰宅するたびに、母はベッドから起き出して夜食の麺をゆで、服に付いた有害物質を手洗いしてくれる。母には、自分はデモ隊の一員ではなく監視役だと説明している。

「ケンは子供の頃から信頼できる子で、悪い道に足を踏み入れたことなんてありません」と、母は誇らしげに語る。「前線で戦い、破壊活動をしている子たちとは違うんです」

テレビで何度も繰り返される破壊のシーンを見ると、母は中国本土で育った子供時代に目撃した現代史の暗黒面を思い出すという。「紅衛兵がスローガンを叫びながら通りを荒らし回った文化大革命みたい」

「こんな暴力と破壊が自由の姿なの?」と、母はケンに問い掛ける。

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