最新記事
文化比較

日本人とアラブ人が考える「理想の仕事」の違い

2020年7月11日(土)15時10分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学教授)

日本人とアラブ人の仕事への意識にはかなり違いがある GCShutter/iStock.

<ビジネスにおける「日本人マインド」と「アラブ人マインド」は違うが、両者をつなげる「パブリック・ディプロマシー」がこれからますます重要に>

ここ数年、日本とアラブ諸国の経済または科学技術の交流が徐々に深まっていくにつれて、日本人とアラブ人の接触する機会が増えている。ただ、言語と文化の壁により、互いの社会の情報を完全に理解できず、受け入れられないことがある。互いの偏見や誤解、ステレオタイプといった障壁によって対立が蔓延する国際社会を前に、注目を集めているのが「文化外交」とも訳されるパブリック・ディプロマシー (public diplomacy) である。

この種の外交の中心となるのは必ずしも政府だけでなく、政府と民間が連携して取り組むことでより大きな効果を生み出すとされている。 パブリック・ディプロマシーの関連分野はさまざまだが、その中で私が特に注目するのは「ビジネスや仕事の感覚」というものだ。

大半の人々は、生きていくために働かないわけにはいかない。また人間は労働という行為を通して、自らの存在意義を確認する。つまり働くということは、個々人の独立と自尊心の充足にとって必要不可欠な行動だ。ただ、国のいろいろな事情によって仕事の感覚とそのリズムはバラエティーに富んでいるのが実情である。それでは、アラブ人はどのような仕事のあり方を理想的だと考えているのだろうか。

NHK放送文化研究所の「日本人の意識」調査にある条件項目を参考に、「理想の仕事」についてアラブ人50人に聞いてみたところ、次のような条件があがった。

1)働く時間が短い仕事
2)失業の心配がない、安定した仕事
3)高収入が得られる仕事
4)責任者として采配が振るえる仕事  
5)世間から一目置かれ、もてはやされる仕事
6)世の中のためになる仕事
7)専門知識や特技がいかせる仕事

この中で、アラブ人が最も重視している条件は何かに関しては、その人の出身地によって差が見られるだろう。

ペルシア湾岸地域出身のアラブ人30人に、「一番理想の仕事の条件は何か」と聞いてみたところ、トップの答えは「責任者として采配が振るえる仕事」だった。アラブ人全般(50人)では、「世間から一目置かれ、もてはやされる仕事」「専門知識や特技がいかせる仕事」「働く時間が短い仕事」の3つの答えが並んだ。

アラブ人の仕事感覚には1つの特徴が見られる。それは「独立志向」だ。「さすが一匹狼のアラブ人だなあ」と思うかもしれない。確かにアラブ人は独立して一国一城の主になることに価値を見出すところが大きいが、今の時代ではこの常識も消えつつある。目まぐるしく変化する経済事情などによって、引き受けるリスクが増大している。そのため、リスクを伴った「独立志向」がだんだん減少し、「安定志向」が増えているのだ。

<関連記事:「自粛」という言葉の向こうに見えてくる日本人独特のマインド

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノンバンク融資に絡むリスクへ監視強化を、IMFが各

ビジネス

景気減速、予想ほど進んでいない可能性=ミネアポリス

ビジネス

仮想通貨規制、各国で「重大な格差」とリスク指摘=F

ビジネス

トランプ大統領と独メルク、不妊治療薬値下げと関税免
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 7
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 10
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中