最新記事

朝鮮半島

「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

2020年7月8日(水)12時00分
前川祐補(本誌記者)

韓国の裁判所から賠償金の支払い命令を受けた金正恩  REUTERS/Shamil Zhumatov

<ソウル地裁が下した歴史的判決により文在寅政権が進める南北融和政策への影響は必至>

金正恩体制を批判するビラをまいているとして、北朝鮮が韓国への非難を始めてから1カ月強。当初は開城(ケソン)にある南北連絡事務所を破壊するなど遠慮のない怒りを見せていたが、金正恩党委員長の「鶴の一声」で南北間の緊張はこのところ収まっていた。だがここに来て、韓国側から新たな緊張の種がまかれた。

20200714issue_cover200.jpg

韓国のソウル中央地方裁判所は7月7日、朝鮮戦争時代に捕虜となった元韓国軍兵士に強制労働をさせたとして、金正恩に対する賠償責任を認める判決を初めて下した。原告団は元韓国軍兵士の2人で、裁判所は北朝鮮に1人当たり2100万ウォン(約190万円)の支払いを命じた。

朝鮮半島情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授は、この判決を「歴史的」だと言う。「金正恩政権に対する裁判の管轄権が韓国国内にあることが示されたことに加え、金正恩に対して初めて民事責任を問うたことになる」

今回の判決を皮切りに、韓国で北朝鮮に損害賠償を求める訴訟が増えると李はみる。その候補は、2010年に46人が犠牲になった韓国海軍哨戒艦「天安」の撃沈事件だ。韓国の軍民合同調査団は撃沈の原因を「北朝鮮の魚雷によるもの」と結論付けた。そのほかにも、韓国軍元捕虜が約8万人、拉致被害者は約10万人いると韓国メディアは報じており、彼らが裁判に訴えることになれば膨大な数の訴訟が起こされる可能性がある。

朝鮮戦争の停戦協定が結ばれてから約70年、なぜ今になってこのような訴訟が起きたのか。背景には2016年1月に北朝鮮に拘束されていたアメリカ人のオットー・ウォームビアが、帰国後に死亡した事件がある。この時、ウォームビアの遺族は北朝鮮を相手取ってアメリカ国内で裁判を起こし、損害賠償金を支払わせるために北朝鮮の資産を差し押さえた。このことが今回の原告団を後押しし、訴訟を起こすことに影響を与えたと指摘されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、雇用下支えへ支援策 米との貿易摩擦長期化で対

ビジネス

米ドル、第1・四半期の世界準備通貨の構成比が低下 

ワールド

スコットランド警察、トランプ米大統領訪問に向け事前

ワールド

トランプ氏、フィリピンなど6カ国に関税率を通知
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 5
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 6
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 7
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 8
    【クイズ】 現存する「世界最古の教育機関」はどれ?
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中