最新記事

香港の挽歌

香港の挽歌 もう誰も共産党を止められないのか

‘NOBODY CAN SAY NO TO BEIJING’

2020年7月7日(火)11時20分
デービッド・ブレナン(本誌記者)

magSR200707_HK3.jpg

天安門事件30周年の香港での追悼集会(昨年6月) TYRONE SIU-REUTERS

「あれが私たちにも適用されたら香港の自由は終わりだ」と、羅は言う。「香港は『一国一制度』に組み込まれてしまう」。つまり言論・集会・思想の自由が守られることのない中国領の1つに成り下がるのだ。

香港の憲法に当たる香港特別行政区基本法の第23条は、中国政府に対する反逆、分離、扇動、転覆を禁じる法律の制定を求めている。そのため香港立法会は03年に国家安全条例の制定を目指したが、大規模な抗議活動により撤回を強いられた。この年に大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)への対応の不手際もあって、初代行政長官の董建華(トン・チエンホア)は2年後に辞任に追い込まれた。

そして今、中国共産党は新型コロナウイルスの拡散防止を名目とする規制強化に乗じて、一気に香港を支配下に置こうとしている。

現地トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、全人代で国家安全法の適用が決まった翌日に市民宛ての書簡を発表し、今の香港は「国家安全保障上の大きな穴」であり、その「繁栄と安定が危険にさらされている」と主張。本誌の取材に対しても、同法は「国家の安全を守ることを通じて香港をも守る」ものだと回答した。

誰も中国にノーを言えない

中国首相の李克強(リー・コーチアン)も、この法律で「香港の長期にわたる繁栄と安定」が約束されると語った。しかし、民主派の香港立法会議員で公民党党首の楊岳橋(アルビン・ヤン)は「この法律は香港の最も貴重なもの、自由を奪う」と言う。

立法会の少数派である民主派は孤立無援だと、楊は訴える。「この法律の適用については誰もノーを言えない。香港議会の出る幕はない」

この件でトランプ米政権がどう動くかは不明だ。なにしろ、ドナルド・トランプ大統領の習に対する態度は複雑で矛盾に満ちている。トランプは数々の放言と関税率引き上げの脅しを使って中国政府に強硬な姿勢を見せ、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の責任は中国にあると非難する一方、習は自分の「友人」だと吹聴してもいる。

トランプは当初、逃亡犯条例改正案をめぐるデモへの中国側の反応を「暴力的でない」と評し、習は「ちゃんと責任を持って」行動していると言った。しかし昨年11月には態度を一転させ、民主派の活動を支援する「香港人権・民主主義法案」に署名している。

アメリカから貿易や投資面で特権的地位を認められてきたこともあって、香港は中国返還後も世界の金融センターの1つであり続けてきた。アメリカ企業が拠点を置く好適地であり、中国本土への架け橋ともなってきた。しかしトランプ政権が香港の特権的地位を取り消すようなら、香港経済の活力も、アメリカと香港間の年間380億ドルの貿易の大半も失われてしまうだろう。

【参考記事】国家安全法成立で香港民主化団体を脱退した「女神」周庭の別れの言葉

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中