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感染第2波

ブラジル、経済活動再開で感染速度5倍へ 首都ブラジリアがホットスポット

2020年7月16日(木)11時01分

ブラジルの感染者数は170万人を超え、死者は7万人近い。米国を除けば世界最大の流行国だ。にもかかわらず、大統領から圧力を受けて、国内各地の市長や知事が隔離命令を緩めつつある。写真は銀行に並ぶ市民。7月7日、ブラジリアで撮影(2020年 ロイター/Adriano Machado)

ブラジルの首都ブラジリア一帯の中で最も貧しく、人口の多いセイランディア市で先日、80歳の老婦人が路上で倒れ、病院に搬送、人工呼吸器を付けられた。近所の人たちが地元メディアに語った。

だがこれは、単なる新型コロナウイルスの感染症事例ではなかった。女性はマリア・アパレシア・フェレイラさん。ボルソナロ大統領夫人の祖母だったからだ。マリアさんは秩序なく広がるほこりっぽいセイランディアで育った。ここが今、新型コロナのホットスポット(大流行地)になっているのだ。


公衆衛生専門家によると、ブラジリアは今年3月、新型コロナ対策で同国として初のソーシャルディスタンス(対人距離)策を導入し、新型コロナ危機をうまく乗り越えてきた。ただ、それは隔離ルールの解除を引き金に感染が急増するまでの話だった。

ブラジリアの多くの著名な感染者の1人がボルソナロ大統領自身だ。同氏は7月7日、発熱後に新型コロナ検査で陽性になったと発表した。

ブラジルの感染者数は170万人を超え、死者は7万人近い。米国を除けば世界最大の流行国だ。にもかかわらず、大統領から圧力を受けて、国内各地の市長や知事が隔離命令を緩めつつある。

ブラジリアは新型コロナでの経済活動再開のリスクを示す事例研究と言える。人口10万人当たりの感染者数は現在2133人。国内の他のどこの主要都市よりも多い。厚生省統計によると、サンパウロやリオデジャネイロといった大都市の2倍超だ。

この一因は、ブラジリアで行われる検査数が他よりも多いことなのかもしれない。所得は人口1人当たりで同国一の高さだからだ。だが専門家は、最近の爆発的な感染急増は明らかに、早過ぎた経済再開によると話している。スポーツジムと美容院は今月7日に再開。バーやレストランはブラジリア連邦地区長官の命令で13日からの週に再開する予定だ。

市衛生評議会のルーベンス・ビアス委員は「この措置がブラジリアの何千人もの住民の死につながるだろう」と警告する。死者の増加、さらに集中治療設備の不足で医療崩壊に近づいていることから、完全なロックダウン(封鎖)が必要だという。地区長官が、経済上の理由で再開を求める大統領の圧力に屈しているとも批判する。

ボルソナロ氏は、新型コロナの健康リスクよりも封鎖による経済的影響の方が深刻だと主張してきている。

8日にはブラジリアの経済再開を認める政令を裁判所が差し止め、これに対しブラジリアは上訴した。その後に長官は、セイランディアと、やはりホットスポット化した隣接のソルナセンテで、不要不急の移動を規制すると宣言した。

だがブラジリアの開発当局は、米国やスイス、オーストリアよりも人口比の検査件数が多い点を主張。ブラジリアで感染の拡大は続いているが、感染者1人からの感染率は4月上旬の2.1から1.2に鈍化しているとの立場だ。


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