最新記事

宇宙

火星の大気中に神秘的な緑の光が初めて見つかる

2020年6月22日(月)16時35分
松岡由希子

火星の大気光のイメージ図 (画像:ESA)

<火星の大気中の微量気体を観測している探査機「トレース・ガス・オービター」が火星の大気中で緑に輝く光を初めてとらえた......>

欧州宇宙機関(ESA)と露ロスコスモスによる火星探査ミッション「エクソマーズ」のもとで火星の大気中の微量気体を観測している探査機「トレース・ガス・オービター(TGO)」が、火星の大気中で緑に輝く光を初めてとらえた。2020年6月15日、学術雑誌「ネイチャーアストロノミー」でその研究成果が明らかとなっている。

原子や分子が太陽光との相互作用により発光する「大気光」

これは、惑星の高層大気で原子や分子が太陽光との相互作用により発光する「大気光」と呼ばれる現象だ。大気光は「夜間大気光」と「昼間大気光」に大別される。

夜間大気光は、日中に太陽放射によって分離した原子が再結合し、過剰エネルギーを光子(光の粒子)として放出する際に生じる現象で、これまでに地球のほか、金星火星でも観測されている。

一方、昼間大気光は、太陽光が直接、酸素や窒素などの原子や分子を刺激したときに生じるもので、夜間よりもずっと明るいために極めてとらえづらく、これまでは地球のみで観測されていた。

1979年に発表された研究論文では「火星にも昼間大気光が存在する」との仮説が示されていたが、実際に観測されたのはこれが初となる。

太陽放射によって二酸化炭素が一酸化炭素と酸素に分離

ベルギー・リュージュ大学の天文学者ジャン=クロード・ジェラール教授らの研究チームは、火星を真下に見下ろす位置から火星の地平線が見えるように「トレース・ガス・オービター」に搭載された観測装置「NOMAD紫外可視分光光度計」を配置し、2019年4月24日から12月1日までの間、高度20〜400キロメートルの地点で観測を実施。

観測データを分析したところ、緑の光が確認された。この光は高度80キロメートル付近で最も強く、火星と太陽との距離に応じて変化した。

研究チームは、一連の発光プロセスをモデル化し、「この光がどのように形成されているのか」についてさらに研究をすすめた。その結果、太陽放射によって二酸化炭素が一酸化炭素と酸素に分離し、この酸素原子が可視光線と紫外線で発光していることがわかった。また、この可視光線の光度は紫外線の16.5倍であった。

ジェラール教授は「火星での観測結果はこれまでの理論に基づくモデルと合致したものであったが、地球で観測されている光とは異なっており、地球の大気光は火星の大気光よりもずっと弱かった」とし、「酸素原子がどのように行動しているのかについて、さらに解明していく必要がある。これは、原子物理学や量子力学の研究にも大いに役立つだろう」と述べている。

【話題の記事】
地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される
動画:「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?
エイリアンはもう地球に来ているかもしれない──NASA論文
ヒトの老化は、34歳、60歳、78歳で急激に進むことがわかった

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中