最新記事

BOOKS

「有罪判決を受ける理由は...おまえが黒人だから」冤罪で死刑囚となった黒人の物語

2020年6月18日(木)11時45分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<「おまえがなにをしていようが、なにをしていなかろうが、関係ない」と刑事は言った。「おまえが有罪判決を受ける理由を五つ、説明できるぞ。知りたいか?」――あまりのひどさに信じがたい実話。しかも、決して昔の話ではない>

ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド氏が警官から暴行を受け死亡したことから、黒人差別問題に今また注目が集まっている。

世界各地へ広がった抗議運動は「Black Lives Matter」ムーヴメントを生み出すに至ったが、そんな中で記憶に蘇ってきた書籍がある。『奇妙な死刑囚』(アンソニー・レイ・ヒントン著、栗木さつき訳、海と月社)だ。

黒人差別が色濃く残るアメリカ南部に生まれ育ち、貧しい黒人であるというだけの理由で無実の罪を着せられ、死刑囚となった人物が自らペンを執ったノンフィクションである。

著者のヒントン氏は29歳だった1985年に逮捕、起訴されたが、弁護士を雇えず死刑宣告を受けることになった。1999年に人権派の弁護士と出会ったことがきっかけとなり、2015年4月に釈放されたが、とはいえ約30年間を死刑囚監房で過ごしてきたのだった。

彼を救い出したその弁護士ブライアン・スティーブンソンは、本書の序文で事の経緯を次のように記している。


 一九八五年のある晩、ヒントン氏がアラバマ州ベッセマーにあるスーパーマーケットの倉庫で床掃除をしていた頃、二四キロほど離れた場所で事件が起きた。レストランの店長が仕事を終えて店をでたところ、武装した男に拉致され、現金を奪われ、銃で撃たれたのだ。
 店長は一命をとりとめたが、犯人はヒントン氏だと証言をした。犯行現場から何キロも離れているうえに、守衛が目を光らせ、全従業員の出社と退社時刻を記録している倉庫で働いていたにもかかわらず、である。警察はアリバイを無視し、ヒントン氏の家を捜索し、古い拳銃を押収し、それが事件に使用された凶器であると断定した。そればかりか、別の強盗殺人事件でも逮捕、起訴した。(「序―――胸に迫る、唯一無二の物語」より)

州の複数の検事が「死刑を求刑することになるだろう」と述べ、ヒントン氏を嘘発見器にかけたところ無実だという結果が出たにもかかわらず、州当局はそれを無視した。

お金がなかったヒントン氏は裁判所が指名した弁護人に頼るしかなかったが、その弁護人は、拳銃に関する州検察の誤った主張に反論できるだけの知識と力を持った専門家を公判に呼ばなかった。

それだけではない。その後も、彼は自分の無実を立証するために必要な法の支援を一切受けられなかったのである。

メディアが騒ぎ立てたがるような"暴力的な黒人"では決してない。それどころかアラバマ州の田園地帯に生まれた彼は、20代後半まで母親とつつましく暮らしていた、穏やかで知的な人物だ。逮捕されたときは派遣従業員として真面目に働いており、それまで暴力行為で逮捕されたことも起訴されたこともなかった。

【参考記事】自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン最高安保委事務局長ラリジャニ氏が死亡=イスラ

ワールド

モジタバ師、米国との緊張緩和提案を拒否=イラン政府

ワールド

インドネシア中銀、予想通り金利据え置き 利下げ余地

ワールド

EU、ロシアとのエネ取引意向ない=カラス外交安全保
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在の価値でどれくらい? 誰が何のために埋めた?
  • 3
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 6
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 7
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 8
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 9
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中