最新記事

アメリカ社会

【バー店主の手記】抗議の声を心から支持するが、破壊はデモを台無しにする

Don’t Take it Out on the Little Guy

2020年6月15日(月)17時35分
トニー・ザッカーディ(「パーマーズ・バー」オーナー)

筆者はバーを略奪から守るため、「黒人オーナーの店」という看板を打ち付けた COURTESY OF TONY ZACCARDI

<ジョージ・フロイドが殺された交差点から5キロ。外壁に「黒人オーナーの店」と書いた。隣はモスクだ。マイノリティーの居住地区だが、安心はできない。ミネアポリスで生まれ育ち、歴史あるバーを営む黒人男性が心境を明かす>

ミネアポリスに生まれ育った私が、パーマーズ・バーを買い取ったのは2年前のこと。ずっと夢だったバーのオーナーになって、ようやく2周年を迎えたところだが、3月から店を閉めている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐためだ。

当分店を閉めなければならないと知った日は、泣いてしまった。今も店を開けることはできない。なんて奇妙な時代だろう。

そこに暴動が始まった。黒人男性のジョージ・フロイドが、警察官に膝で首を押さえ付けられ、その後死亡した事件がきっかけだ。

フロイドは私の店からさほど遠くない場所にあるバーの警備員だった。私は直接知り合いではなかったけれど、一緒に仕事をしていたという人物を知っている。

あの事件では誰もが傷ついた。誰もがあの動画を見て、胸が張り裂ける思いをした。

私はもともと、人種や政治の話はしないタイプだが、抗議デモが暴動や略奪に発展するケースが増えている今、店を守る行動を起こさなくてはいけないと思った。だから店の外壁に、「黒人オーナーの店」と書いたベニヤ板を打ち付けた。

酒場であれ、商店であれ、オーナーなら誰もが、「うちの店は特別だ」と言うだろう。だが、パーマーズ・バーは本当に特別な店だ。

ツインシティーズ(ミネアポリス・セントポール都市圏)で最も歴史ある酒場の1つであり、地域住民の憩いの場であり、いくつものサプライズが起きる場所だ。そんな歴史ある店の今を預かる立場にあることを、心から誇りに思っている。

パーマーズ・バーがオープンしたのは1906年。それ以来、スペイン風邪も、2つの世界大戦も、ドナルド・トランプ大統領も(今のところ)乗り越えてきた。でも、今回は少しばかり心配だ。というのも、ここから2キロほどのところにあるヘキサゴン・バーが、先日の暴動で焼け落ちてしまったからだ。

ヘキサゴン・バーも1934年から続いてきた歴史ある店で、地元住民にとても愛されていた。それなのに暴動のさなかに近隣に放たれた火が燃え広がって、瞬く間に店全体がのみ込まれてしまった。

5月29日の朝、6時半に起きて自宅アパートから外を見ると、パーマーズ・バーの方向から煙が上がっているのが見えた。大慌てで駆け付けると、幸い店は無事だったけれど、2〜3ブロック先にある質屋は完全に焼け落ちていた。

magw200615_BLM2.jpg

ミネアポリスで生まれ育った筆者トニー・ザッカーディと夢の店「パーマーズ・バー」 COURTESY OF TONY ZACCARDI

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中