最新記事

感染症対策

新型コロナ収束で消える「感染ホットスポット」 ワクチン開発の障害に

2020年6月6日(土)13時07分

英オックスフォード大学で行われたエボラ出血熱ワクチンの治験。2015年1月、オックスフォードで撮影(2020年 ロイター/Eddie Keogh)

新型コロナウイルスによるパンデミックの第1波は、どうやら収まりつつあるようだ。だがワクチン開発者にとっては、これが障害になりかねない。

いくつかの地域・国において厳格なロックダウン(封鎖措置)とソーシャル・ディスタンシング政策がそれなりの成功を収め、ウイルスの感染率がかなり低いレベルに抑え込まれた。しかし、欧州、米国の科学者らは、有望なワクチン候補について本格的な治験を行うには、疾病が十分に広がっていない可能性がある、と述べている。

ワクチン開発に向けて納得のいく成果を得るために、アフリカやラテンアメリカといったパンデミックの「ホットスポット」、つまり今も感染が広がっている地域に目を向ける必要が出てくるかもしれない。

「皮肉なことに、ウイルス感染のホットスポットを潰していく公衆衛生上の措置が本当に成功しているとすれば、ワクチンの治験が困難になるだろう」と米国立衛生研究所(NIH)のフランシス・コリンズ所長は話す。

治験には感染拡大状況が必要

感染者600万人以上、死者37万人近くをもたらしている新型コロナのパンデミックを終わらせるためには、ワクチンの開発が必須の課題となる。各国首脳は、ワクチン接種こそ、失速した経済を再開するための唯一の現実的な方法であると考えている。

だが、まったく新しい疾病に有効なワクチン候補の臨床試験を大規模かつ迅速に実施するのは容易ではない、と科学者らは言う。パンデミックの状況は変化している。その最中に治験を行うこと自体、簡単でないのに、感染拡大の勢いが衰えてしまえば、その作業はさらに困難さを増す。

英ウォーウィック・ビジネス・スクールで既存薬再開発を研究するエイファー・アリ氏は、「治験を成功させるためには、人々が市中感染のリスクに晒されている状況が必要だ。ウイルスが一時的にせよ排除されてしまっていれば、治験も無駄になる」と話す。

「解決策としては、治験の拠点を市中感染が広がっている地域に移すことだ。今で言えば、ブラジルやメキシコといった国になるだろう」


【関連記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染20人 5日連続で2桁台続く
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・韓国ではなぜ新型コロナ第2波のリスクが高まったのか
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利下げ今年2回予想、一時停止の可能性も=ミネアポリ

ビジネス

ドイツ政府委、最低時給の段階的引き上げ勧告 27年

ビジネス

独当局、ディープシークをアプリストアから排除へ デ

ビジネス

アングル:株価急騰、売り方の悲鳴と出遅れ組の焦り 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中