最新記事

検証:日本モデル

【特別寄稿】「8割おじさん」の数理モデルとその根拠──西浦博・北大教授

THE NUMBERS BEHIND CORONAVIRUS MODELING

2020年6月11日(木)17時00分
西浦博(北海道大学大学院医学研究院教授)

営業自粛と外出自粛要請により、日本の風景は様変わりした(5月28日、新宿)PHOTOGRAPH BY HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

<新型コロナ対策で接触機会の「8割削減」を提唱し、数理モデルによる「42万人死亡説」が悲観的すぎたと一部で糾弾された西浦博・北海道大学教授。予測はどのようにしてはじき出されたのか。称賛と批判の渦中にある教授が本誌に特別寄稿。本誌6月9日号「検証:日本モデル」特集より>

2020年5月21日、日本政府は4月7日に発出した緊急事態宣言を特定警戒都道府県の関西3府県で解除し、25日には東京を含む残りの5都道県でも解除した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第1波を乗り越えつつあることを受けての決定であり、日本は欧米のような感染爆発を免れた。
20200609issue_cover200.jpg
外出自粛要請や休業要請が約1カ月半に及ぶなか、その途上では「自粛の要請で大丈夫なのか」「ロックダウン(都市封鎖)はいらないのか」という声も聞かれ、他方で終盤には、「経済が逼迫していて自粛どころでない」という切実な声も上がった。都市部や北陸の医療現場は3月後半から入院患者数が日に日に倍増するなかでの対応となるなど、現場で働く方々の毎日の努力と行動のたまもので何とか収束に向かうことができた。皆さんが各自の生活でご尽力いただいたことに、1人の研究者として御礼を申し上げたい。本当にありがとうございました。

そして今、第2波のリスクに対峙するに当たっては、被害の想定と取るべき対策をめぐるコミュニケーションについての問題点を改めないといけないと考える。それは、4月15日の記者会見で筆者が話した「何も流行対策を施さなければ、日本で約85万人が新型コロナウイルスで重症化し、その約半数が死亡する」という試算(モデル)が、「42万人の死亡の想定」というメッセージとしてクローズアップされ、前提条件やメッセージの真意から外れて数字が独り歩きしてしまったことを振り返り、強く思うことだ。

このメッセージでは被害想定に加えて、取るべき対策の提案が必ずしも十分に備わっていなかったかもしれないと思う。シミュレーションに基づくアナウンスには、科学者の極論としての意味合いがどうしても強くなってしまう。「何もしなければこのような数になる可能性があるが、接触の削減を徹底すれば実際にはかなり低く抑えられる可能性がある」というメッセージと、「少しでもこの数を減らすために皆で対策をするほうがいい」というメッセージが上手に伝えられなかったと感じている。

死亡者数の被害想定は、あくまで「流行対策をしない」という仮定の下で計算されているので、実際に観察されたのがそれを下回る700人台(5月中旬時点)の死亡者数であると、「モデルが間違っていた。自粛なんてする必要がない」というような誤解も生じかねない。大規模な流行が防がれたことによって感染者数の爆発的な増加が防がれたわけであり、流行が拡大すると今度は制御が困難になり得ることは改めて覚えておかないといけないと思う。

ニュース速報

ワールド

ベトナムでコロナ感染再拡大、中部ダナンの4工場で感

ビジネス

在宅勤務拡大による不動産への影響注視=西村再生相

ビジネス

GoToやマスク支出は無駄、他の使途が有効=原田・

ビジネス

英HSBC、上期は税引き前利益が65%減少 引当金

MAGAZINE

特集:ルポ新宿歌舞伎町 「夜の街」のリアル

2020-8・ 4号(7/28発売)

コロナでやり玉に挙がるホストクラブやバーの店主 彼らは本当に「けしからん」存在なのか

人気ランキング

  • 1

    【独占】押谷仁教授が語る、PCR検査の有用性とリスクとの向き合い方

  • 2

    抗議デモに参加した17歳息子の足元に新品の靴 略奪に加わった可能性が...

  • 3

    南シナ海でやりたい放題の中国、ベトナムいじめが止まらない

  • 4

    アメリカが遂に日本政界の媚中派を名指し批判──二階…

  • 5

    日本の新型コロナ感染者、重症化率・死亡率が低い理由…

  • 6

    トランプのツイッターで急浮上 米大統領選「悪夢の…

  • 7

    学生が大学を訴える──質落ちたオンライン授業に「学…

  • 8

    米中関係どん底へ バイデン大統領が誕生なら改善す…

  • 9

    中国から米国に「謎の種」が送りつけられている.....…

  • 10

    東京都、31日のコロナ感染463人で過去最多更新 小池…

  • 1

    韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット 一方で「TPOをわきまえろ」と論争に

  • 2

    中国から米国に「謎の種」が送りつけられている......当局は「植えないで」と呼びかけ

  • 3

    アメリカが遂に日本政界の媚中派を名指し批判──二階氏や今井氏など

  • 4

    これは何? 巨大な黒い流体が流れる様子がとらえら…

  • 5

    【独占】押谷仁教授が語る、PCR検査の有用性とリスク…

  • 6

    新型コロナウイルス、患者の耳から見つかる

  • 7

    次期WTO事務局長選、韓国は日本に支持を呼びかけた..…

  • 8

    「韓国の対応は極めて遺憾、このような状況では政策対…

  • 9

    三峡ダムより九州の水害を報じる、中国報道は「ポジ…

  • 10

    抗議デモに参加した17歳息子の足元に新品の靴 略奪…

  • 1

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか

  • 2

    「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

  • 3

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3.5m超える

  • 4

    科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求…

  • 5

    韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット …

  • 6

    中国から米国に「謎の種」が送りつけられている.....…

  • 7

    孤立した湖や池に魚はどうやって移動する? ようや…

  • 8

    宇宙観測史上、最も近くで撮影された「驚異の」太陽…

  • 9

    アメリカが遂に日本政界の媚中派を名指し批判──二階…

  • 10

    戦略性を失った習近平「四面楚歌」外交の末路

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月