最新記事

温暖化

バイオシフト──海洋生物は陸上生物よりも6倍速く極地に移動している

2020年6月4日(木)17時15分
松岡由希子

海洋生物は地球温暖化に伴って極地へと移動している...... Andrea Izzotti -iStock

<フランス国立科学研究センターなどは、1万2000種の生物の生息地の分布範囲の変化の速度を分析した......>

地球温暖化により、多くの生物が生息地を脅かされ、極地に向かって移動し続けている。なかでも海洋生物は、陸上生物に比べ、6倍の速度で極地へ移動していることが明らかとなった。

フランス国立科学研究センター(CNRS)、フランス海洋開発研究所(Ifremer)らの共同研究チームは、これまでに発表された研究論文258本をもとに、既知の生物種の0.6%に相当する1万2000種以上の動物、植物、微生物、菌類の生息地の移動3万534件をまとめた独自のデータベース「バイオシフト」を構築。それぞれの種の分布範囲の変化の速度を分析し、2020年5月25日、その研究成果を学術雑誌「イチャーエコロジー&エボリューション」で発表した。

陸上生物の移動は想定よりも遅かった

これによると、陸上生物は、地球温暖化に伴って極地へと移動しているものの、そのペースは、特に温帯地域において、想定よりも遅いことがわかった。両生類の移動距離は1年あたり12メートル、爬虫類では6.5メートルだ。一方、多くの疫病を媒介する昆虫は、1年あたり18.5キロメートルのペースで移動している。より大きな区分で比較すると、海洋生物は、陸上生物に比べて6倍の速度で極地へと移動している。

海洋生物が陸上生物よりも速いペースで移動している要因として、水のほうが空気よりも25倍、熱を伝導させやすいことや、陸上動物の多くが体温の調整機能を備えていることなどが考えられる。

また、海洋生物のほうが、制約なく生息地を移動させやすいことも寄与しているだろう。陸上では、都市化や農業、造林といった人間活動によって、生物の移動が妨げられている。一部の陸上種では、このような人為的撹乱によって、極地とは逆方向に移動していることも確認された。

この研究論文では、将来の気候変動のもとでの生物多様性の分布変化のシナリオ立てにおいて、これらの要因が複雑な相互作用を考慮すべきだと説いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中