最新記事

ロシア部隊

米兵の首に懸賞金を懸けていたロシアの「29155部隊」とは

What Is Unit 29155? The Russia Intel Branch Accused of U.S. Troop Bounties

2020年6月30日(火)20時14分
デービッド・ブレナン

29155部隊は、2018年にイギリスで起きたロシア人の元二重スパイ暗殺未遂事件に関与したと考えられている。英国諜報部のためにスパイ活動を行っていた元GRU工作員セルゲイ・スクリパリは、2006年にロシア当局に起訴され、有罪判決を受けた後、2010年に米露が合意したスパイ交換で釈放され、英国に亡命していた。しかし、2018年3月に英南部の都市ソールズベリーで、娘とともに神経剤攻撃を受けた。命を取り留めた父娘は新しい身元を得て、ニュージーランドに移住したと見られている。

のちにべリングキャットが身元を明らかにした暗殺未遂犯は、スクリパリの自宅玄関に神経剤ノビチョクを吹き付けるために使ったボトルをごみ箱に捨てた。ところが、それを見つけた別の男性が香水ボトルだと勘違いした。男性は危篤状態に陥りながらも一命をとりとめたが、パートナーは死亡した。

29155部隊はまた、2016年にバルカン半島のモンテネグロで発生したクーデター未遂事件にも関与したとされている。このクーデターは、同国の親ロシア派国会議員が、モンテネグロのNATO加盟を何とか妨害しようとして企てたとされている。計画の背後にはロシアとセルビアがいたとされ、モンテネグロ国会を襲撃し、ミロ・ジュカノビッチ首相を暗殺する予定だったという。

邪魔する者は消す

モンテネグロ当局によってクーデターは阻止され、ロシア国籍の男性エドワルド・シシュマコフとウラジミール・ポポフの2名が不在のまま起訴された。ロシア政府はクーデター未遂事件への関与を認めていない。モンテネグロ検察によれば、シシュマコフは以前、GRU工作員であることが判明してポーランドから国外追放された男だ。

英ソールズベリーで元スパイ毒殺未遂事件を実行したGRU工作員は、2015年にブルガリアの兵器販売者エミリアン・ゲブレフの毒殺を2度にわたって試みた一味と見られている。べリングキャットが29155部隊の関与を突き止めた事件はほかにも、2014年のロシアによるクリミア併合や、同じく2014年のモルドバ不安定化を目的とした秘密工作がある。GRU工作員が2016年と2017年にスイスへ定期的に入国していた証拠も発見されている。

29155部隊は現在、スペインで捜査の対象となっている。これは、2017年秋にカタルーニャ自治州で実施された独立住民投票の前と最中に、同部隊の工作員が州都バルセロナを訪れていたことが、べリングキャットの分析によって明らかになったのだ。
(翻訳:ガリレオ)

【話題の記事】
アダルトサイトを見ているあなたの性的嗜好は丸裸 グーグルやフェイスブックが追跡=調査
中国「三峡ダム」危機--最悪の場合、上海の都市機能が麻痺する

20200707issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-TOPIX採用企業は今期6.6%減益予想、先

ワールド

焦点:シリア暫定大統領、反体制派から文民政府への脱

ワールド

台湾輸出、10月はAI好調で約16年ぶり大幅増 対

ワールド

韓国当局者、原潜は国内で建造 燃料を米国から調達の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中