最新記事

ロシア部隊

米兵の首に懸賞金を懸けていたロシアの「29155部隊」とは

What Is Unit 29155? The Russia Intel Branch Accused of U.S. Troop Bounties

2020年6月30日(火)20時14分
デービッド・ブレナン

狙われていた?アフガン駐留米兵。トランプは知っていながら手をこまねいていたのか? Lucas Jackson-REUTERS

<ロシアの諜報機関の特殊工作部隊が、アフガニスタンの米兵を殺せば賞金を出すとタリバンに指令を出していたことがわかった。二重スパイを猛毒ノビチョクで殺そうとしたのもこの「29155部隊」と言われるが、どんな組織なのか>

ロシア軍の諜報機関「GRU」(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)に属する特殊工作部隊が、アフガニスタンに駐留するアメリカ兵の殺害を報奨金付きでイスラム原理主義勢力タリバンに依頼していたことが報じられている。西側諸国や周辺各国の不安定化を企むロシア政府の秘密工作を最前線で実行してきた部隊だ。

「29155部隊」と呼ばれるこの特殊工作部隊は2008年に活動を開始したと見られている。しかし、その存在が初めて公になったのは2019年で、ニューヨーク・タイムズ紙が、匿名の西側諜報機関の情報として報道したときだ。

謎に包まれたこの部隊が先週末、再び脚光を浴びたのは、ニューヨーク・タイムズ紙が、ロシア諜報機関がタリバン兵にアフガニスタン駐留のアメリカ兵を殺害すれば賞金を出すと依頼していたと報道したのだ。これを受けて、アメリカ国内では米大統領ドナルド・トランプに対して怒りの声が上がっている。そうした作戦が存在することを何カ月も前に知らされていたにもかかわらず、何の行動も起こさなかったとみられるためだ。

西側の民主主義を揺るがす企て

ワシントン・ポスト紙の報道によると、米諜報機関は、アフガニスタンでの米兵死亡事件のうち、少なくとも1件が29155部隊の依頼に関係していると見る。米地上軍は、早くも1月にはこうした疑惑を報告しており、トランプ政権内では3月から状況判断をめぐって議論がされてきたと、ニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。

29155部隊が米兵を直接標的にしていると非難されたのは今回が初めてだ。しかし同部隊は、他国での陰謀や暗殺計画など、複数の事件で注目を浴びてきた。それらの事件はすべて、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンが、西側の民主主義を揺るがし、ロシアの影響力を強化しようとする企ての一環だ。

独立系の英調査報道グループ「べリングキャット」のジャーナリストたちによると、29155部隊は、実戦経験を積んだ工作員約20人で構成されているようだ。その目的はヨーロッパの不安定化である。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、同部隊は極秘扱いされており、GRUのほかの部隊ですら、その存在を認識していない可能性がある。

ニューヨーク・タイムズ紙が2019年10月に報じたところによれば、29155部隊を指揮するのはアンドレイ・アヴェリャノフ少将という人物だ。第1次及び第2次チェチェン紛争に従軍したベテランとみられ、2015年にはロシア最高の栄誉勲章を受章している。

<参考記事> >リトビネンコ事件再び?ロシア元スパイが毒物で重体──スティール文書と接点も
<参考記事>元スパイ暗殺未遂に使われた神経剤「ノビチョク」はロシア製化学兵器

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、牛肉輸入にセーフガード設定 国内産業保護狙い

ワールド

米欧ウクライナ、戦争終結に向けた対応協議 ゼレンス

ワールド

プーチン氏、ウクライナでの「勝利信じる」 新年演説

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.6万件減の19.9万件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中