最新記事

感染症対策

新型コロナ、客室内の「空気」は安全? 航空業界に新たな課題

2020年5月27日(水)10時51分

乗客の居住密度もリスク要因

だが、空気の流れは感染をめぐる複雑な方程式の一部でしかない。「航空機における最大の課題は、居住密度が非常に高いという点だ。多くの人々が狭い空間に密集しているので、空気の品質を維持するには、その空間に大量の空気を投入しなければならない」とジョーンズ教授は言う。

米疾病管理予防センターによれば、新型コロナウイルスは、濃厚接触、つまり6フィート未満の距離にある人と人との間で感染すると考えられるという。これは多くの航空機客室の約半分に相当する長さだ。

これほど短い距離における空気の流れは、何よりも予測が難しいと言われている。乗客は、各席の上方にある「ガスパー」と呼ばれる個別の空気吹出口によって、空気の流れをある程度自分でコントロールすることができる。

ジョーンズ教授によれば、平均的に見て、空気吹出口の向きを変えることで「(状況は)少しマシになるが、何の保証もない」という。

フィルターで濾過されているとはいえ、最悪の場合、空気吹出口によって絞り込まれた空気の流れが、近くのウイルスを乗客の顔に吹き付ける可能性もある。その一方で、吹き付ける空気の方向によって、水平に流れる空気の移動を制限するというポジティブな効果もあるかもしれない。

こうした疑問に直面して、ボーイングとエアバスではエンジニアたちを動員し、席と席のあいだの空気の流れを検証している。用いられるのは、翼の空洞実験で使われているものと同じ、先進的な物理学だ。

「各席に設けられたエアジェットについて何か勧告できるかどうか、積極的にシミュレーションを実施している」

搭乗中の感染という不安は、少なくとも2003年のSARS流行の際にはすでに生じていた。ただし、搭乗と感染の関係が証明されたことはない。

この年の3月、やはりコロナウイルスを原因とするSARSに感染した72歳の男性が、香港から北京へのフライトに搭乗した。119人の乗客のうち少なくとも22人、そして乗員2人が後にSARSを発症した。

搭乗中に発生した重大な感染例はこの1件だけだが、これを契機として、症状のある利用者を搭乗させないための措置がとられるようになった。

デラニー氏は、新型ウイルスを機内に入れないための戦略には、こうした「水際阻止」作戦も含めなければならないと話す。今後の取組みでは、紫外線殺菌システムや抗菌性素材などの技術に関する研究も取り入れられる可能性がある。

(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・経済再開が早過ぎた?パーティーに湧くアメリカ
・東京都、新型コロナウイルス新規感染10人 15人未満が12日連続
・「検査と隔離」もウイルス第2波は止められない 米専門家
・新型コロナの死亡率はなぜか人種により異なっている



20200602issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英加豪ポルトガルがパレスチナ国家承認、イスラエルは

ワールド

インタビュー:プラザ合意40年、行天元財務官の後悔

ワールド

インタビュー:プラザ合意40年、行天元財務官の後悔

ワールド

インタビュー:プラザ合意40年、行天元財務官の後悔
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがたどり着ける「究極の筋トレ」とは?
  • 3
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 4
    トランプに悪気はない? 英キャサリン妃への振る舞い…
  • 5
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 8
    「より良い明日」の実現に向けて、スモークレスな世…
  • 9
    異世界の魔物? 自宅の壁から出てきた「不気味な体の…
  • 10
    【クイズ】21年連続...世界で1番「ビールの消費量」…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 3
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 4
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 7
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中