最新記事

ヨーロッパ

スロバキアがコロナ封じ込めに成功した3つの要因

How Slovakia Flattened the Curve

2020年5月15日(金)14時30分
ミロスラフ・ベブラビ(元スロバキア国民議会議員)

3月末に発足した新内閣は首相以下、メンバー全員がマスクを着用 Radovan Stoklasa-REUTERS

<コロナ対策は万全でなくても死者数は最少──制限緩和も始まった中欧の小国の成功の秘密とは>

人口当たりの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)死者数がヨーロッパで最も少ない国は? 5月6日に制限措置の大幅緩和を発表したドイツでも、反ロックダウン(都市封鎖)戦略を取るスウェーデンでもない。人口545万人のスロバキアだ。

同国で確認された感染者数は1455人で、死者数は26人(5月8日時点)。既に2万人以上が死亡しているニューヨーク州に、スロバキアの死亡率を当てはめた場合、死者数は約90人にとどまる計算になる。

その秘訣はどこにあるのか。スロバキアが新型コロナウイルス封じ込めに成功しているのは、封鎖のおかげではない。現実は正反対で、人の往来の度合いは極めて高い。

欧州内の他国に通勤したり、季節労働者や移民として働くスロバキア国民は数十万人に上る。アウトブレイク(感染症の爆発的拡大)が発生した隣国オーストリアには、2万人超が高齢者介護従事者として通勤し、若年層の留学傾向はEU各国中、最も高い。

携帯電話利用データによれば、2月後半~3月前半に、コロナ禍のさなかにあったイタリア北部を訪れたスロバキア人は約5万人に上ったが、彼らの帰国後も大規模な感染拡大は起こらなかった。

死亡率が低いのは公的機関の質が高いから、でもない。スロバキアはEU加盟国だが、昨年発表された「世界健康安全保障指数」での成績は振るわなかった。

同指数は195カ国を対象にパンデミック(世界的大流行)などへの対応能力をランク付けした。スロバキアの「エピデミック(局所的流行)の早期発見・報告」能力は70位で、「エピデミック拡大への迅速な対応・抑制」能力は105位。対照的に、ドイツは前者が10位、後者は28位と評価されている。

こうした数字が現実において何を意味するのか、スロバキア国民はこの1カ月半ほどの間に思い知らされてきた。

政府への信頼は低いが

パンデミック宣言当初、スロバキアのPPE(個人用防護具)・検査キット備蓄数は限定的だった。検査や接触者追跡に当たるチームも、経験豊富な専門家がそろっていたとはいえ、数はわずかだった。

現在でも、同国は接触者追跡アプリも、「スマート隔離」制度も導入していない。一方、同じく封じ込めに成功している国の1つである台湾は、パンデミック宣言の前からそうした制度を実施していた。

それにもかかわらず、スロバキア国内での集団感染事例は主に、3つのグループに限られているとみられる。少数民族ロマの貧困層(イギリスからの帰国者から感染が拡大した可能性が高い)、介護施設で暮らす高齢者、Uターンしてきた移民とその家族だ。確かに当局は迅速に動いたが、対応に乗り出したのは集団感染の発生後にすぎない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対

ワールド

中国が首脳会談要請、貿易・麻薬巡る隔たりで米は未回

ワールド

アングル:インドでリアルマネーゲーム規制、ユーザー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中