最新記事

ヨーロッパ

スロバキアがコロナ封じ込めに成功した3つの要因

How Slovakia Flattened the Curve

2020年5月15日(金)14時30分
ミロスラフ・ベブラビ(元スロバキア国民議会議員)

ならば、なぜ新型コロナウイルスの猛威に見舞われていないのか。筆者が話を聞いた複数の専門家によれば、大きな要因は3つある。

最も重要な要因は政府の迅速な決断だ。緊急事態宣言が発令されたのは、国内初の感染者が確認されてから9日後の3月15日。翌日から学校は一斉休校し、食料品店や薬局、銀行を除く全ての商業施設が閉鎖され、イベントや集会の開催が禁止された。

国内の全空港を閉鎖し、帰国者の隔離も義務付けた。ただし、一部の国と異なり、個人単位での移動はおおむね制限されなかった。

こうした措置が奏功しているのは、第2の要因のおかげにほかならない。すなわち、国民が足並みをそろえて即座に要請に従ったことだ。スロバキアでは一般的に政治家や政府への信頼感が低い。それでも今回、市民は自発的に指示どおりに行動した。

これには、政治家の姿勢が一役買ったことは間違いない。準備不足の責任の所在をめぐる政党間の争いはあったものの、連邦当局と州当局が対立するアメリカと違って、脅威の深刻さや制限措置の必要性について異論は出なかった。

そこで重要になるのが第3の要因だ。公的機関よりもさらにウイルス封じ込めに貢献しているのはメディアだと、専門家らは指摘する。

WHOの否定的な見解にもかかわらず、スロバキアでは早くからマスク着用が普及した。分岐点になったのは3月13日、国内で人気のテレビ番組に出演した新内閣発足前のイゴール・マトビッチ次期首相とマレク・クライチー次期保健相に、司会者がマスクを手渡して模範を示すよう求めたときだ。2人はその場でマスクを着け、翌日から国中にマスク着用が広がった。

メディアと市民の力で

コロナ危機は、より硬派のメディアの読者数増加にもつながっている。スロバキアでは普段、健康問題に関する陰謀論を展開する非主流派のオンラインメディアの人気が非常に高い。だが当初の数週間、これらのウェブサイトは新型コロナウイルスについて全く取り上げなかった。

その結果、主流派メディアが世論形成のリード役になった。イースター(復活祭)休暇中の旅行に関する判断ミスなど、特定の施策は批判しつつも、こうしたメディアは規制遵守の必要性を過小評価することは慎重に避けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ビットコイン再び9万ドル割れ、一時6.1%安 強ま

ワールド

プーチン氏、2日にウィットコフ米特使とモスクワで会

ビジネス

英住宅ローン承認件数、10月は予想上回る 消費者向

ビジネス

米テスラ、ノルウェーの年間自動車販売台数記録を更新
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中