最新記事

中国

米中激突:ウイルス発生源「武漢研究所説」めぐり

2020年5月8日(金)11時09分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

5月5日のニューヨークポストは"Trump blames China for coronavirus spread but says 'they didn't do it on purpose'"(トランプははコロナウイルスの蔓延を中国のせいにしているが、「わざとではない」と言っている)というタイトルの報道をしている。トランプは中国攻撃のトーンをすっかり弱めているのだ。

ニューヨークポストのインタビューにトランプは「武漢からウイルスが出たということを明らかにしただけで、研究所を特定しているわけではない」とさえ言っている(Trump clarified that he meant the virus "got out" of Wuhan, not the lab specifically.)。

トランプとポンペオは最初のころは明確に「ウイルスは武漢の研究室(実験室)から出た。それに関するレポートも出す。膨大な証拠がある」と言っていた。ブルームバーグザ・ガーディアンが伝えている。

アフターコロナの米中パワーバランスに影響

またトランプは中国に対する報復措置として、「新しい関税を徴収する」とも明言している。

ところが次の日になると、大統領副補佐官(安全保障担当)のMatthew Pottingerが「アメリカは報復措置を求めていない。あくまでも中国に第一段階の貿易協議を遵守させるのが目的だ」と言い出している。

アメリカ統合参謀本部長Mark Milleyも「コロナウイルスは人工的ではない」と発言。Matthew Pottingerはかなりの対中鷹派なので、ホワイトハウス全体が口裏を合わせてトーンを変え始めたという印象を与える。

5月7日になるとCNNが<コロナ発生源、武漢研究所の「確信ない」 ポンペオ米国務長官>と伝えた。

こうなると「譲歩の連続」であり、ウイルス発生源論争に関するアメリカの敗北を招く。

これを最も恐れていたので、トランプ政権のウイルス発生源「武漢研究所説」に関しては動静を静かに見守りながら、筆者自身の発信は控えていた。

しかし事態は「愉快でない方向」に動き始めた。

これはアフターコロナの米中パワーバランスを決める大きな要因の一つになるので、確かでない噂に乗っかって煽らないようにしなければならないだろう。さもないと、中国に有利に働く危険性を孕んでいる。

トランプが言う通り、責任は習近平にある。その線は譲ってはならない。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中