最新記事

ポストコロナを生き抜く 日本への提言

コロナ禍を機に観光業を「解毒」せよ(アレックス・カー)

AWAKE FROM ILLUSION

2020年5月7日(木)16時50分
アレックス・カー(東洋文化研究者)

経済効果はあるが品格維持に懸念も(東京・浅草) BRADLEY HEBDON/ISTOCK

<観光客の数ばかり重視した対応から、節度と品格を守る健全な産業へ変革する方法とは? 本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より>

中国では、2000年以上前から「錬丹術」が存在していた。辰砂(しんしゃ)などから水銀やヒ素を錬成し、それらを含む「金丹」を飲むことで不老不死の仙人になると信じられていた。実際は水銀とヒ素は猛毒物質で、飲んだ人は苦しみながら毒死する。

2020050512issue_cover_200.pngしかし、死後に毒が身体中に回って死体の腐敗を遅らせる。この時間差を不老不死と思い込み、錬丹術の流行はさらに拍車が掛かり、数え切れない人々が毒死したという。死体が腐ってないから仙人だ、という人々の錯覚は、猛毒の薬を「霊薬」と勘違いさせるようになった。

現在、新型コロナウイルスで大きな被害を受けている日本の観光業でも同様の連鎖が生じる恐れがある。初めに、インバウンド観光は日本にとって極めて重要だと強調しておきたい。そこから得られる収益は、もはや自動車産業と競える規模に成長を遂げ、停滞してきた日本経済を救う大きな原動力となっている。

同時に、文化面にも好影響を与えてきた。インバウンドの劇的増加に伴い、国際感覚に対応できるよう努めた結果、ホスピタリティー産業は革新的なまでにクオリティーを高めた。何より、過疎や高齢化に苦しむ地方の市町村にとって、インバウンド観光は天からの救いと言っても過言ではない。私の進めてきた古民家再生事業も、全て観光の力に支えられている。ここまでが観光業が持つ本来の「霊薬」である。

無頓着で無秩序な観光管理

一方、これには毒も含まれていて、有害物質が体内にはびこっている。それがオーバーツーリズムや観光公害などの問題で、コロナウイルスの脅威にさらされる数カ月前まで盛んに取り沙汰されていた課題だ。

文化施設や信仰の場である京都の神社仏閣は、客を喜ばすサーカスになろうとしている。歴史ある食品市場は画一的な土産物店の集まりに、住民の消えた古い町はホテル街に姿を変え、交通渋滞や景観の悪化、マナー問題などを引き起こした。また、客がお金を使わずに帰る「ゼロドルツーリズム」が深刻化している。

しかし、急に観光客がいなくなったことで、オーバーツーリズムまで一気に解決したと思い込んでしまう。経済的に潤った黄金時代の良い側面だけが記憶に残り、多くの観光客が戻ることを願うだけになっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中貿易摩擦再燃で新たな下振れリスク、利下げ急務に

ワールド

トランプ氏、習氏と会談の用意 米財務長官 中国「混

ビジネス

シカゴ連銀発表の米小売売上高、9月は+0.5% 前

ビジネス

米BofAの7─9月期は増益、投資銀行業務好調で予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中