最新記事

中国

全人代開幕日決定から何が見えるか?

2020年5月2日(土)19時41分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

習近平は会議の冒頭で「我が国がコロナ戦に打ち勝つことができたのは、党(中国共産党)の指導と我が国の社会主義制度が優秀だったからだ。それが何よりも重要である」と「自慢げに?」(苦し紛れに?)強調している。

これで通ってしまうのは、さすがに「一党支配体制」だ。

会議では「公共衛生応急物資システムの改善」、「医療保障基金改革」、「創業板改革を行い、審査制から登録制に移行させると同時に実行に移す方案」など多くの項目が審議され決定されたが、中でも注目点は「創業板改革」と言っていいだろう。

「創業板」というのは「中国版ナスダック」や「ChiNext(チャイネクスト)」とも呼ばれ、深セン証券取引所の新興企業向け市場(ベンチャーボード)のことである。主たる目的として「投資の促進による雇用機会の拡大」、「中小企業の資金繰り難の改善」、「次代を担う企業の育成」による中国経済の持続的な成長を達成することなどを掲げている。

上海証券取引所は大企業や外国企業に重きを置き、深セン証券取引所は中小企業やベンチャー企業に重きを置いている。業種別では情報技術とヘルスケアが占める割合が高い。まさにアフターコロナの経済復興には打ってつけだ。

全人代とアフターコロナ

3月10日の習近平武漢入り以降は、中国のコロナ戦は基本的に勝利したとみなして、習近平は専ら「貧困脱却」を日々強調している。これは中国共産党の建党百周年記念である2021年までに貧困層を完全に無くすという「小康状態」を達成するのだという「党の目標」があるからだ。コロナにより達成が困難となりそうなのを、何とか「自分の力」で成し遂げたい。

一方、コロナ戦ではリアル空間ではなくデジタル空間における技術力が抜群の力を発揮した。悪名高い監視社会は感染者の追跡に圧倒的な力を発揮したし、街で人同士が顔を合わせて買い物をする光景を消してしまった。そうでなくとも「現金を入れた財布」を持たなくなった中国では、今後必ず「デジタル人民元」というブロックチェーン技術が経済形態を変えていき、やがて世界の新秩序形成をもたらすだろう。

一党支配体制がコロナ戦を勝利に導いたのではなく、一党支配体制が崩壊することへの恐れが、習近平をして「聯防聯控機構」に従わせたのである。

この関係を深く考察しないと、今後の中国もアフターコロナの新世界秩序も見えてこないだろう。

アメリカの感染者が今もなお爆発的に増加し続けていることは、米中経済戦争にとっては中国に有利に働く。習近平はここに全力を投入しようとしている。これに関しては多角的分析が必要なので、文字数の関係上、またの機会に譲る。

おおむね以上が、全人代開幕決定から見えてきた真相だ。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ムーディーズ、日本の格付けA1を確認 見通しは安定

ビジネス

豪コアインフレ率、第3四半期0.9%なら予測「大外

ワールド

独IFO業況指数、10月は88.4へ上昇 予想上回

ワールド

ユーロ圏銀行融資、9月は企業・家計向けとも高い伸び
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中