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年収2000万円超から除染作業員へ、この下級国民の話は「すべて真実」

2020年5月14日(木)11時30分
朴順梨(ライター)

写真はイメージです BeyondImages-iStock.

<貧困をテーマにし、2018年に「住所不定、62歳」でデビューした小説家の赤松利市さんが、初の随筆を発表。「以前だったら関係者にバレたらと怖くてムリ」と語る彼は、なぜ今回、自分のことを書いたのか>

2018年に『藻屑蟹』(徳間書店)で第1回大藪春彦新人賞を受賞後、『ボダ子』(新潮社)、『らんちう』(双葉社)、『犬』(徳間書店)などハイペースで作品を書き続けてきた赤松利市さんが、初めての随筆『下級国民A』(CCCメディアハウス)を発表した。

「住所不定、非正規労働者の62歳」で小説家としてデビューした赤松さんは、これまでも自身の経験や家族をテーマにしてきた。『藻屑蟹』では原発事故後の除染作業員としての経験、『ボダ子』や『女童』(光文社)では境界性パーソナリティー障害と診断された自身の娘......。

いずれも小説という形を取っていたが、『下級国民A』はエッセイになっている。帯には「すべて真実」の惹句。創作ではなく、自分のことを直截に書いたのはなぜだったのか。


私の本って、読後感最悪でしょう。

開口一番そう言った赤松さんに、『下級国民A』を書いた理由を聞いた。

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インタビューに答える赤松利市氏 Newsweek Japan

小説で伝わらないなら、エッセイで書くしかない

確かに『純子』(双葉社)や『らんちう』など、赤松さんのこれまでの作品はどれも読み進めていくうちに、言葉を失ってしまうものばかりだった。


読んでいただけば分かると思うんですけど、私は起承転結の結を書かないんです。転まで書いて、あとは読者に放り投げるようにしていて。というか、物語を丸めるのが嫌なんですよ。プロット(筋書)を作らず、冒頭から一気に書くから、自分でもラストがどうなるか分からないんです。

赤松さんは35歳でゴルフ場のコース管理の会社を立ち上げ、一時は2000万円以上の年収があった。しかし心を病んだ娘と暮らす生活を続けるうちに、徐々に生活が破綻していく。2011年に東日本大震災が起き、復興バブルに乗じて起死回生を図ろうと被災地に乗り込むが、バブルどころか欺瞞と憎悪、そして絶望に溢れていた。

そんな日々を描いた『下級国民A』の冒頭は、宮城県石巻市の渡波(わたのは)駅前での午前4時から始まる。暖房のないトイレの便座に座ってホカホカのカレーパンを食べながら、1時間半後に駅舎が開くことを時計で確認する。季節は真冬、冷え切った空気が全身の皮膚を容赦なく切りつけるような、痛みに満ちた描写が続いていく。


だって本当に寒かったもん(笑)。東北では窓ガラスが凍って、ピキピキいうんです。毎日夜明け前から、渡波駅前の多目的トイレでずっと文庫本を読んでました。

なぜ多目的トイレで時間を潰さなければならなかったかは同書に譲るが、原発や除染作業員の話はこれまでも小説で書いてきた。今回はなぜ、自身を中心に据えたのだろうか。

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