最新記事

BOOKS

ネットの「送料無料」表記に「存在を消されたようだ」と悲しむ人たちがいる

2020年4月28日(火)11時25分
印南敦史(作家、書評家)


 交通ルールを守っていた歩行者を轢いて死亡させても逮捕されない暴走ドライバーがいるのに対し、トラックドライバーは安全運転していても、突如現れたサイクリストや自殺志願者など、回避できない対象を轢くと、「交通強者」であるという理由から、現行犯逮捕された挙句、高確率で実名報道される。
 昨今巷を賑わす「上級国民」という言葉を耳にするたび、トラックドライバーは、世間以上にその"違い"を深く考えさせられるのだ。(98〜99ページより)

このように理不尽な扱いが少なくないことも、トラックドライバーが「底辺職」だとされる一因なのかもしれない。しかし、そんな中にも自らの仕事を「天職」であると誇り、愚痴をこぼしながらも生き生きと走り続けるドライバーが数多く存在することも、ぜひ分かってほしいと著者は訴える。

彼らがトラックを降りないのは、「仕方がないから」でも「他に職がないから」でもなく、「トラックドライバーという職が心底好きだから」にほかならないのだ。

にもかかわらず、そんな仕事を外側の人間が否定したり、侮辱したりすることはやはりフェアではないだろう。

◇ ◇ ◇


 日本の貨物輸送の9割以上を担うトラックは、「国の血液」によく例えられる。そうならば「道路」は、「国」という「体」の隅々に張り巡らされた「血管」で、「荷物」はその血液が血管を通して運ぶ「栄養」といったところだろう。(「まえがき」より)

著者のこの言葉を引き合いに出すまでもなく、現代生活におけるトラックの役割は大きい。ましてや新型コロナウイルスの流行によって多くの人が移動を制限されている状況下においては、貨物輸送なくして生活は成り立たないと言っても過言ではない。

そんな時期だからこそなおさら、本書を通じてトラックドライバーの存在の大きさを知るべきではないだろうか。そうすれば自然に、彼らに感謝できるに違いない。


トラックドライバーにも言わせて
 橋本愛喜 著
 新潮新書

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。

20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米規制当局、金融機関の幹部報酬巡るルール作りに再着

ワールド

ヨルダン国王、イスラエルのラファ侵攻回避訴え 米大

ワールド

ロシア凍結資産、ウクライナ向け武器購入に充てるべき

ビジネス

ドル154円半ばへ続伸、豪ドルは急落前の水準回復
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中