最新記事

韓国政治

総選挙リベラル派圧勝に見る韓国政治の地殻変動

2020年4月20日(月)15時45分
ネーサン・パク

韓国の新型コロナウイルス対策を各国の指導者に紹介する文 SOUTH KOREAN PRESIDENTIAL BLUE HOUSE/GETTY IMAGES

<文在寅率いるリベラル派の与党「共に民主党」が、単独で過半数議席を獲得。新型コロナ対応が国内外で評価されたが、史上初となる4連勝の理由はそれだけではない>

結果は空前の地滑り的圧勝だった。4月15日の韓国総選挙では、文在寅(ムン・ジェイン)大統領率いるリベラル派の与党「共に民主党」が、300議席中180議席を獲得した。1987年の民主化以降、総選挙で単独の政党が獲得した議席は150議席余りが最多だった。

与党が単独で180議席を獲得した意味は大きい。韓国の制度では、5分の3に当たる180議席を持っていれば、野党が反対する法案を単独で本会議に上程し、採決できる。

これまで「共に民主党」は過半数を確保していなかったので、法案を成立させるためには小政党の協力を取り付ける必要があった。今後は、司法改革や差別解消などの看板政策を実現しやすくなるだろう。

今回の選挙結果の意味は、こうした短期的な政権運営の面だけにとどまらない。

最近まで、韓国は保守派の強い国だった。選挙でリベラル派が勝つのは、穏健保守派と手を結ぶか、保守派が分裂するかした場合に限られた。

1997年に金大中(キム・デジュン)が大統領に当選できたのは、軍事独裁者の朴正煕(パク・チョンヒ)の右腕だった金鍾泌(キム・ジョンピル)と協力し、しかも保守政党が分裂選挙になったからだ。2002年に大統領に当選した盧武鉉(ノ ・ムヒョン)も、現代財閥の創業者一族で中道派の鄭夢準(チョン・モンジュン)と組むことで大統領の座を手にした。

その点、今回の総選挙で保守派は結束してリベラル派に対抗しようとした。それにもかかわらず、リベラル派が歴史的な圧勝を遂げたのである。

文率いる「共に民主党」は、2016年の総選挙、17年の大統領選、18年の統一地方選、そして今回の総選挙と、4つの選挙で大勝している。韓国の民主主義の歴史で、全国規模の選挙で4連勝を果たした政党は過去にない。

この背景には、韓国政治の地殻変動がある。文は選挙で勝つたびに、韓国を中道左派の国へと導いてきた。

韓国政治を丹念に見ていない外国人が抱く「韓国のリベラル派」のイメージは、いまだに1990年代のままだ。北朝鮮シンパの学生活動家が火炎瓶を置いて政界入りしたが、大げさな演説ばかりしていて、実務能力に欠ける......そんな固定観念がある。

確かに、韓国の中道左派政党は民主化運動に端を発しているし、有力政治家の多くは学生運動出身者だ。以前は、理想論に傾き過ぎる面があったことも否定できない。

しかし、こうしたイメージはもう古い。現在の「共に民主党」は中産階級の政党に変貌を遂げ、30~40代の都市部の有権者から圧倒的な支持を受けている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への手堅い対応も有権者に評価されているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中