最新記事

新型コロナウイルス

インド、トランプの圧力で「コロナ特効薬」の輸出禁止を解除

India Set to Supply Hydroxychloroquine to U.S. After Trump Threat Indian Prime Minister

2020年4月8日(水)16時20分
デービッド・ブレナン

トランプが新型コロナ治療に有望と一人で信じる抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」 BartekSzewczyk-iStock

<新型コロナウイルスの治療薬としてトランプが期待するのは、マラリアに罹った自国民に必要な抗マラリア薬。インドのモディ首相は苦しい立場に>

インドは3月末にCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の治療薬候補の一つとして期待されている抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」の輸出禁止を発表した。国内のマラリア患者用に取っておく必要があったためだ。

だがナレンドラ・モディ首相は4月7日、一転して輸出禁止を解除した。ドナルド・トランプ米大統領の執拗な輸出要請に屈したようだ。医療専門家の間では異論があるのだが、トランプはこの薬を対コロナ戦争の「ゲームチェンジャー」になると言ってきた。

ヒンドゥスタンタイムズ紙によると、インド外務省は4月7日、「インドの生産能力に依存する近隣諸国に対して適切な量の」ヒドロキシクロロキンの輸出を認めるほか、新型コロナウイルスのパンデミックで「特に打撃を受けている」国に対しても輸出すると発表した。

当初は「例外なしで」ヒドロキシクロロキンの輸出禁止を決定していたことからすると、今回の発表はモディ政権にとって180度の方向転換だ。

トランプは5日にモディと電話会談を行い、ヒドロキシクロロキンの輸出禁止解除を要請。アメリカへの輸出を認めるよう迫った。トランプはヒドロキシクロロキンが新型コロナウイルス感染症の治療に使えると繰り返し語っている。

<参考記事>トランプのブゥードゥーコロナ対策が米医療を引っ掻き回す悲劇

有効性はまだ検証中

米食品医薬品局(FDA)は3月28日、特定のケースで新型コロナウイルス感染症患者に投与を認める「緊急使用許可」を出した。だが専門家はCOVID-19治療薬としての有効性はまだ十分に実証されていないと警告している。

トランプは、ヒドロキシクロロキンの有効性に関する医学の専門家の議論をやめさせたがっている。国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長がこの薬に関する質問に答えることさえ妨害した。ファウチは、ヒドロキシクロロキンの有効性を示す証拠は事例報告にすぎないと繰り返し警告している。

トランプは6日、さらなるモディへの圧力として、インドがヒドロキシクロロキンを輸出しない場合は報復を匂わせた。「輸出を許可しないなら、それはそれで構わない。でも、報復はあるかもしれない。ないとはいえない」と、ホワイトハウスの記者会見で語った。

実際にインドからのヒドロキシクロロキンがアメリカに到着したら、トランプは大勝利だと自画自賛するだろう。ただし医学界はその有効性がどの程度のものか、まだ疑問視している。

<参考記事>その薬大丈夫? トランプ推奨する未認証マラリヤ薬投与拡大、医療現場「効果は不透明」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア黒海主要港、石油積み込み再開 ウクライナの攻

ビジネス

メルク、インフルエンザ薬開発のシダラを92億ドルで

ワールド

S&P、南ア格付けを約20年ぶり引き上げ 見通し改

ワールド

米国境警備隊、シャーロットの移民摘発 初日に81人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中