最新記事

日本経済

政府コロナ緊急経済対策への緊急提言「政府は損保に徹せよ」

2020年4月8日(水)12時01分
林文夫(政策研究大学院大学教授)

損した人には30万円、個人事業主には100万円、と安倍首相は言うが(4月7日) Tomohiro Ohsumi/REUTERS

<安倍政権の緊急経済対策は不公平で本当に困った人が救われない>

政府は今日(4月6日)、与党に緊急経済対策案を提示した。残念ながら、経済学の素養のある人が作った案とは思われない。

現金給付について:政府は損保に徹せよ

政府がすべきことは、損害額である家計所得の損失を確定し、保険金を各個人に支払うことだ。ただ火災保険などと異なり、損害額の確定は、感染の終息を待たなくてはならないので、保険金の支払いまで政府が無担保のつなぎ融資をする。無担保といっても、予想される保険金額を融資の上限とすれば、融資の焦げ付きは小規模にとどまる。民間銀行でなく政府が融資をすれば、政府が保険金の支払いにコミットするというシグナルになる。

では損害額はいつ、どう確定するか。私の提案は、確定は来年の確定申告時、損害額は、2020年の申告所得から「ショックがなかったときの所得」を差し引いた額とする。保険金の支払いは、所得税の還付という形をとれば、迅速に行える。「ショックがなかったときの所得」は、2019年の所得について今年確定申告した個人については、2019年の所得とするが、上限と下限を設ける。申告しなかった個人については、たとえば2019年の申告所得の最頻値とする。

モラルハザードの懸念

政府が支払う保険金は、こうして確定した損害額の「一定割合」とする。コロナショックのせいで所得が減れば、納税額も減るのだから、「一定割合」を100%から限界税率を控除した値にすれば、税引後の所得は、ショックがない場合と変わらない。このように完全保障をするとモラルハザード発生の心配があるから、限界税率を控除した後さらに10%程度の控除をすべきだ。

なお、失業保険の充実を条件として、損害保険の対象は、給与所得を除いた事業所得に限ることも考えられる。

また、念のために付け加えると、保険金の支払いは、景気刺激のためではない。ショックのため底をついた貯蓄を補充するためだ。

政府の緊急経済対策では、早急に現金給付をするとしているが、問題点は二つある。一つは、各個人の月々の収入を政府が把握できないこと。自己申告に頼らざるを得ないが、虚偽の申告をする個人が続出するだろう。もう一つの問題点は、追加的な現金給付を約束されても、もらえる金額が不確定なので、特に事業者にとっては今後の不安は払拭されない。飲食店経営者に中には、貯蓄が底をつき、お店を開け続けなければ食べていけない人が多いと見聞する。私の提案のように、コロナ危機の間の損失の大部分が補填されるとわかっていれば、それが自粛要請を受け入れるインセンティブになる。飲食店の営業自粛がより徹底すれば、盛り場に繰り出す若者も少なくなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ゴールデンドーム構想、迎撃システム試作品の発注先

ワールド

ウクライナ和平で前進、合意に期限はないとトランプ氏

ワールド

FBI長官解任報道、トランプ氏が否定 「素晴らしい

ビジネス

企業向けサービス価格10月は+2.7%、日中関係悪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 10
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中