最新記事

日本社会

新型コロナウイルス対応の経済対策は「経済的な死者」の急増阻止を最優先に

2020年3月25日(水)19時00分
斎藤 太郎(ニッセイ基礎研究所)

コロナ禍による経済悪化で失業者、自殺者の急増が危惧される diane555-iStock

<政府は、感染症による死者と同時に経済悪化による死者を抑えなければならない。そのために必要なのは、消費減税や現金給付ではなく企業の倒産を防ぐ政策だ>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年3月23日付)からの転載です。

「経済的な死者」を増やさないことが重要

通常のインフルエンザでは世界で毎年数十万人の人が亡くなるが、それでも経済活動の制限は特別に行わない。それは、インフルエンザによって失うものよりも、経済活動を制限することによって失うもののほうが大きいからである。新型コロナウイルス感染症による死者は現時点で約1万3千人(3/22時点)だが、世界各国が渡航制限、移動制限、店舗閉鎖、イベント中止など経済活動の大幅な制限に踏み切ったのは、そうしなければ経済の悪化によって失うものよりも、感染拡大によって失うもののほうが大きいと判断したためと考えられる。

したがって、新型コロナウイルス感染症に対する経済対策は、経済活動の収縮による損失を可能な限り小さくすることに重点を置くべきだ。新型コロナウイルスの感染拡大による死者を減らすことが出来たとしても、経済的な死者をそれ以上に増やしてしまえば、新型コロナウイルスとの闘いに負けたことになる。

Nissei200325_2.jpg

ここでいう経済的な死者とは、失業などの経済問題を理由とした自殺者のことである。失業者数と自殺者数、とりわけ経済・生活問題を原因とした自殺者数には強い相関関係がある。日本の自殺者数のピークは2003年の34,427人(うち、経済・生活問題を原因とした自殺者は8,897人)だが、その時期は失業者数のピーク(2002年の359万人)とほぼ一致している。その後、自殺者はリーマン・ショック後の2009年にいったん増加したが、2010年以降は雇用情勢の改善に伴う失業者の減少とともに10年連続で減少し、2019年には20,169人(うち、経済・生活問題を原因とした自殺者は3,395人)となった。今後、景気の急速な悪化によって、失業者、自殺者が急増するリスクがあり、これを防止することを今回の経済対策の柱とすべきである。

通常の経済対策とは違う

失業者、自殺者を増やさないために必要なことは、言うまでもなく企業の倒産を防ぐことだ。通常の経済対策は、景気悪化によって落ち込んだ需要を喚起することに重点が置かれる。しかし、現在は政府が感染拡大を防ぐために人為的に需要を抑えているという極めて特殊な状況にある。所得税、消費税の減税や給付金の支給は通常の景気後退期であれば消費押し上げ効果が期待できるが、消費の場が失われたままでは意味をなさないだろう。生活必需品に対する支出はある程度増えるかもしれないが、現在需要が急減しているのは外食、旅行、娯楽などの選択的支出であり、問題の解決にはならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは158円半ば、一時1カ月半ぶり高値

ビジネス

ライブ・ネーション、反トラスト訴訟で和解間近 チケ

ビジネス

街角景気、2月は4カ月ぶり改善 前月比1.3ポイン

ビジネス

金価格が一時2%超下落、ドル高・米利下げ期待後退で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ルートとは?...スクワットの真実
  • 2
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    「溶けた金属のよう...」 ヨセミテ国立公園で「激レ…
  • 5
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 6
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 7
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 10
    最後のプリンスが「復活」する日
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 5
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中