最新記事

観光業の呪い

ほほ笑みの国タイの憂鬱──中国偏重がもたらす経済危機と感染危機

CHINA BLUES

2020年3月25日(水)18時15分
オースティン・ボデッティ

magSR200324_thailand2.jpg

通常なら観光客があふれるプーケットの旧市街も静か(1月31日) JUARAWEE KITTISILPA-REUTERS

タイ経済は観光業への依存度が高いため、観光業への打撃は経済全体への打撃となる。マレーシア金融大手RHB銀行の試算では、新型コロナウイルスとそれに伴う中国人観光客の減少は、タイ経済に35億1000万ドルの損失をもたらしそうだ。

中国偏重を改める気配なし

市民は既に、経済と保健の2大危機襲来に身構えている。タイ最大の観光名所であるワット・プラ・ケオ(エメラルド寺院)など多くの観光地では、ツアーガイドが手術用マスクを着けて客待ちをしている。

だが、政府の対応は煮え切らない。元陸軍大将のプラユットは、2014年にクーデターで権力を握って以来、中国との関係強化を図ってきた。2018年のタイム誌とのインタビューでは、中国を「タイにとって1番のパートナー」だと述べるとともに、「タイと中国の間には、数千年にわたる友好関係がある」と胸を張った。

2019年に中国の李克強(リー・コーチアン)首相がタイを訪問したとき、プラユットは中国人投資家も歓迎し、中国の一帯一路構想におけるタイの貢献をアピールした。同年9月に、中国共産党で党外交を担う宋濤(ソン・タオ)中央対外連絡部長と会談したときは、中国政府が国民にタイ旅行を奨励していることに感謝の意を表明。これに先立ちタイ政府は1年間にわたり、中国人観光客にはビザ(査証)を免除する計画も明らかにしていた。

新型コロナウイルスの拡大が、両国の観光業における協力関係にどのような影響を与えるかは、まだ分からない。ただ、プラユットが国内外の政策を牛耳っていることを考えると、劇的な変化が起こることは当面なさそうだ。

だが、国民の間では政府の対策が甘いという不満がくすぶっている。プラユットは、「政府が世界基準の対策を講じていることを信じてほしい」と国民に訴えたが、1月末に体調を崩してイベントの出席を取りやめたときは、新型コロナウイルスに感染したのではないかとの噂が立ち、保健相が火消しに追われた。

また、タイ経済はしばらくの間、中国人観光客に過剰依存してきたツケに苦しみそうだ。中国人からの観光収入はタイのGDPの2.7%を占めるという最近の試算を受け、通貨バーツは大幅安となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB当局者、金融市場の安定性に注視 金利の行方見

ワールド

ロシア、ウクライナ東部ハルキウ州の要衝制圧 軍参謀

ワールド

米、ウクライナと和平案協議 双方が受け入れ可能な案

ワールド

中国商務相、駐中米大使と会談 貿易関係の「不確実性
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中