最新記事

新型コロナウイルス

中国専門家チームを率いる「SARSの英雄」医師、鐘南山とは何者か

DR. ZHONG NANSHAN IS IN

2020年3月13日(金)12時30分
マージョリー・ペリー

国内外のメディアの取材に応える鐘南山(2020年2月11日、広州市) THOMAS SUEN - REUTERS

<17年前のSARS禍で共産党と闘い「英雄」と称えられた医師、鐘南山が新型コロナ危機でも注目を集めている。今回は中国政府で専門家チームを率いる鐘は、今も「英雄」なのか? 本誌3月17日号の特集「感染症vs人類」より>

世界で最も人口の多い都市の1つ、北京。mag20200317coversmall.jpgその街中は今、奇妙なほど静かだ。自主的な自宅待機を徹底させるために、集合住宅は正面玄関以外の出入り口が封鎖されている。

静まり返った通りと対照的に、中国で最も利用者の多いメッセージアプリ、微信(WeChat)はにぎわっている。毎日大量に投稿される記事や画像、動画の大半は、COVID-19(2019年型コロナウイルス感染症)の最新情報。

そして、ありとあらゆる内容が並ぶなかでひときわ注目を集めているのが、医師の鐘南山(チョン・ナンシャン)だ。

感染症研究の第一人者で呼吸器の専門医の鐘を、中国メディアは「SARSの英雄」と呼ぶ。2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が猛威を振るった際、中国の公衆衛生当局と政府高官は国民の信頼を失った一方で、鐘の誠実さは称賛を浴びた。

国営メディアは当初、SARSのウイルスはコントロールできていると伝えていたが、鐘はそれを否定し、いち早く警鐘を鳴らした。SARS終息後のインタビューで、正直で勇気ある行動をたたえられた鐘はこう答えた。「自分を抑えることができなかった。だから、完全にはコントロールできていないと発言した」

鐘は83歳と高齢ながら、今回、国家衛生健康委員会の「ハイレベル専門家チーム」のトップに任命された。さらに、事実上の広報官として、中国語と英語のメディアの取材を多数受けている。

断固とした決意で透明性の高い危機管理に取り組んでいることを強調したい共産党にとって、鐘はまさに適任だ。彼を前面に立たせることは、中央政府に対する非難の矛先を変える戦略でもある。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、17年前のSARSが招いた公衆衛生の危機と、不安になるほどよく似ている。健康被害に関する警告を適切なタイミングと方法で市民に知らせようという努力に、政府が介入している点も同じだ。

一方で、中国のソーシャルメディアには、ウイルスに関する議論があふれている。手洗いの徹底を呼び掛ける公衆衛生の専門家もいれば、ワクチンの開発に成功したという虚偽の噂もある。政府に対する厳しい批判が今のところ検閲で削除されていないのは、不満のはけ口として容認されているのだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中