最新記事

イスラエル

ネタニヤフの5期目続投でイスラエルは独裁へ?

Netanyahu Again?

2020年3月12日(木)18時00分
シュロモ・ベンアミ(イスラエル元外相、トレド国際平和センター副所長)

出口調査の結果を受け、リクード本部に到着したネタニヤフ AMIR COHEN-REUTERS

<総選挙で辛勝したネタニヤフ首相の続投が決まれば、イスラエルを独裁に向かわせる白紙委任状になってしまう>

3月2日に行われた過去1年間で3度目のイスラエル総選挙(定数120)は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相にとって望ましい結果ではなかった。自身が党首のリクードを中心とする右派勢力は、ベニー・ガンツ元軍参謀長率いる中道左派勢力の55議席を上回る58議席を獲得したが、首相続投に必要な過半数には届かなかった。

イスラエルは今後何カ月も、宙ぶらりんの状態が続く可能性がある。野党勢力はガンツの「青と白」連合に左派政党とアラブ系政党を加えた寄り合い所帯であり、次期政権の受け皿にはなり得ないが、ネタニヤフの首相続投を阻止するだけの力はある。

カギを握るのは7議席を獲得した極右政党「わが家イスラエル」の動向だ。世俗主義のアビグドル・リーベルマン党首は、(宗教色の強い政党と手を組む)リクード主導の連立には絶対に参加しないと明言しているが、アラブ系政党を含む野党勢力の側に付くことも想像し難い。

いずれにせよ、今回の総選挙はイスラエルの民主主義のお寒い現状を浮き彫りにするものだ。現在のネタニヤフは収賄、詐欺、背任などの罪で起訴されている身だが、それでも歴代最長となる5期目の首相に手をかける一歩手前まで行った。

ひどく困惑させられる話だが、同時にネタニヤフが15年近くかけてイスラエルの民主主義を組織的に破壊してきたことを考えれば、当然の結末だったとも言える。

ネタニヤフの選挙キャンペーンは、史上最も汚いもののの1つだったかもしれない。臆面もなくガンツとリベラル系メディアを中傷し、明らかなフェイクニュースや悪意のあるリーク、根拠のない噂をばらまいた。恥ずかしげもなくユダヤ人とアラブ人の対立をあおった。自分が任命した検察官を罵倒し、首相の刑事責任を追及しようとする彼らの行動を「クーデター未遂だ」と主張した。

司法への介入も視野に

おそらくネタニヤフは比較第1党になったという事実を盾にして、自分の首相続投を阻もうとする司法の試みは「人々の意思」に背くものだと主張するだろう。

では、人々とは誰なのか?

それは近年のイスラエルの驚異的な経済成長を引っ張ってきた「リベラルなエリート」ではない。ネタニヤフの言う「人々」とは、社会から見捨てられ、発言権を奪われたと感じている人々を指す。

何とも皮肉な話だ。イスラエルの交通・教育、医療システムは、ネタニヤフ政権下で劣化の一途をたどってきた。例えば病院不足のせいで、イスラエルの感染症死亡率は先進国の中で最悪になった(患者10万人当たり38人)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月PCE価格、前年比2.3%上昇 個人消費支出

ビジネス

米中、希土類輸出巡る対立解消 ジュネーブ合意の履行

ビジネス

中国人民銀、経済状況に応じて効果的に政策対応 金融

ビジネス

利下げ今年2回予想、一時停止の可能性も=ミネアポリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中