最新記事

米ロ関係

エスカレートする軍事演習......アメリカとロシアの新冷戦が近づいている

Is the Cold War Back?

2020年2月21日(金)19時00分
ウィリアム・アーキン(軍事アナリスト)

magw200221_ColdWar2.jpg

訓練に参加するロシア軍のMi8輸送ヘリ ASS/AFLO


対ロシアとの規模の違いが際立ったのが、対イランだ。12月4日、8カ月に及ぶ中東での任務を終えたリンカーンはホルムズ海峡を通過して帰還。その1カ月後、イラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官の殺害でイラン危機がエスカレートした。

ボルトンが発表した急派には爆撃機6機も含まれていたが配備は短期間で、大隊規模の海兵隊部隊も既に中東を離れていた。緊急配備された地上軍は1万人足らずで、大部分がパトリオット対空防衛システム部隊。空軍機がリンカーンの航空団を増強した。対イラン攻撃の全貌は、たったの3戦隊だった。

国防総省の文書によれば、同じ頃、米軍戦闘機の9つの飛行中隊が対ロシア戦に備える軍事演習のためヨーロッパに配備された。6月20日、イランが米軍の偵察ドローンを撃墜した時、トルコ中南部コンヤでは演習「アナトリアン・イーグル」が行われていた。トルコはイランに隣接しているが、軍事演習はEDIの資金で行う完全にNATOヨーロッパ中心のものだった。

6月13日にペルシャ湾で石油タンカー2隻が機雷による攻撃を受けた時は、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、黒海では10カ国の特殊部隊が参加する軍事演習が行われていた。北部海域では軍事演習「バルト海作戦」でNATO加盟18カ国およびスウェーデンとフィンランドの艦船50隻、軍用機40機が一堂に会した。リトアニアやポーランド、クロアチアなど7カ所でNATOの演習が進行していた。

衝突回避を目指したが

対ロシア戦を想定した軍事演習に動員されたNATOと同盟国の兵士は5万人超。米空軍のF35戦闘機が初めてフィンランドとノルウェーに配備された。さらにイギリスに前方展開配備されていた米軍のB52爆撃機も加わり、バルト海と黒海の上空で同時にロシアへの模擬爆撃を行った。

バルト海作戦完了直後にはノルウェー領の北極海で軍事演習「ダイナミック・マングース」がスタート。その増強のため黒海での「シーブリーズ」も始まった。米議会でトランプ大統領によるウクライナ疑惑が話題になっていた頃、同国周辺では19カ国から合計で艦船32 隻、軍用機24機が活動していた。

ロシアも黙ってはいなかった。昨年5月、リトアニアで作戦行動中のハンガリーの戦闘機が識別信号を出さずに飛行するロシア空軍機を発見。アラスカ州西岸とアリューシャン列島の上空にもロシアの爆撃機が派遣された。5月末、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、国境付近でNATOの活動が増加している状況に懸念を表明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ミサイル駆逐艦が台湾海峡航行、中国は警告

ビジネス

ECB、急激で大幅な利下げの必要ない=オーストリア

ビジネス

ECB、年内利下げ可能 政策決定方法は再考すべき=

ビジネス

訂正(7日配信記事)-英アストラゼネカが新型コロナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中