最新記事

感染症

新型コロナウイルス、世界へ拡散させた「シンガポールルート」

2020年2月19日(水)10時48分

恐怖が身近に迫る

サーボメックスの首脳陣チームや海外営業部門の従業員などの社内メールに基づくと、会議から1週間余りたってから、マレーシアで最初の感染症例が出現した。ウイルスの潜伏期間は最長14日で、キャリア(感染者)が発症前に別の人々に感染させることもあり得る。

同社は、ウイルスを抑え込み、従業員と地域社会を守るための「幅広い措置」を直ちに講じたと表明し、109人の会議出席者全員を個別に隔離した。このうち94人はシンガポール国外から会議に参加し、既に同国を離れていた。

ウイルスは広がり続けた。

マレーシア人感染者とビュッフェで食事を共にしていた韓国人2人が発症。また、このマレーシア人からは姉妹と義理の母にも感染した。シンガポール人の会議出席者3人からも陽性反応が出た。

その後は欧州に飛び火。ウイルスに感染した英国人出席者がフランスのスキー場に向かって、そこで5人が発症した。スペインでも因果関係がありそうな感染例が確認され、この英国人がイングランド南部の地元に戻ると、ウイルスの拡散がさらに進んだ。

地元の学校の発表によると、学校は2人を隔離対象にした。同じ学校に子供が通っているナタリー・ブラウンさんは「1分前まで中国の話だったのが、次の瞬間に文字通り、自分たちの家の玄関前の階段のところまで来ている。感染拡大の速さは驚くほどで本当に怖い」と語る

時間切れ

シンガポールに舞台を戻すと、当局は国内で新たに広がっていくウイルス感染を追跡し続けるのに四苦八苦だったが、この多くは最初の感染例とは無関係だった。

グランドハイアット・シンガポールの経営陣は、ホテル内を徹底的に清掃するとともに、従業員と客に感染者がいないかどうか監視していると述べたが、1月の会議の出席者が「いつ、どこで、どのように」感染したかは分からないと頭を抱える。会議の光景をフェイスブックに投稿した獅子舞の踊り手たちは、自分たちはウイルスに感染していないと話している。

シンガポール国立大学の感染症専門家ポール・タンブヤー氏は「会議に出席した者がペーシェント・ゼロだと誰もが決めつけるが、清掃担当者かもしれないし、ウェイターかもしれないのだ」と語り、ほかの感染経路の可能性を突き止めるためにも、ペーシェント・ゼロを見つけることがとても重要なのだと付け加えた。

とはいえ時間はなくなりつつあるかもしれない。

シンガポールのケネス・マク保健相は、政府として感染拡大が終息するまでペーシェント・ゼロを特定する努力を続けると宣言したが、時間が過ぎれば過ぎるほど実現は難しくなる。マク氏も「ペーシェント・ゼロが誰か、もう永遠に分からなくなるかもしれない」と本音をのぞかせた。

(John Geddie/Sangmi Cha/Kate Holton記者)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

中国、日本への渡航自粛呼びかけ 高市首相の台湾巡る

ビジネス

カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも利下げ

ビジネス

米国とスイスが通商合意、関税率15%に引き下げ 詳
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新作のティザー予告編に映るウッディの姿に「疑問の声」続出
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中