最新記事

感染症

新型コロナウイルス、世界へ拡散させた「シンガポールルート」

2020年2月19日(水)10時48分

1月にシンガポールの高級ホテルで開かれたセールス会議。ここからも新型コロナウイルスが広がり、3週間で韓国やスペインなど5カ国・地域で感染者が十数人に達した。写真は2月5日、シンガポールで撮影(2020年 ロイター/Tim Chong)

英ガス分析機器会社サーボメックスが今年1月、シンガポールの高級ホテル「グランドハイアット・シンガポール」の会議場で開いたセールス会議では、ペットボトルやパソコンなどが置かれたテーブルの間を、幸運をもたらすとされる獅子舞が練り歩き、英国からの出張者らが盛んに写真撮影をしていた。

だが会議はとても吉兆と呼べるものではなかった。会場に座っていた者か、あるいは周辺にいた人物からまさに世界各地に新型コロナウイルスが拡散されようとしていたからだ。

このルートを通じた新型コロナウイルスはそれから3週間で、韓国やスペインなど5カ国・地域に広がり、感染者は十数人に達した。世界の保健当局は、そんなありふれた会議に一体誰がウイルスを持ち込んだのか解明するのになおも躍起になっている。

専門家によると、感染者第1号(ペーシェント・ゼロ)を発見し接触した全員を特定することが感染の抑制に乗り出す上で重要になる。しかし時間がたつにつれて、その作業は困難になる。

世界保健機関(WHO)が取りまとめ役の組織「グローバル・アウトブレーク・アラート・アンド・レスポンス・ネットワーク」で座長を務めるデール・フィッシャー氏は「患者に(新型コロナウイルスによる肺炎との)診断を下す一方で、そのウイルスがどこから来たのか分からないのは、われわれにとって明らかに不安だ。感染抑制に向けた対応効果が薄れてしまう」と語った。

当局者らは当初、くだんの会議に出席した中国からの訪問団の中にペーシェント・ゼロがいると示唆していた。この中にはウイルスの感染源となった武漢市からの参加者も含まれていた。もっともサーボメックスの広報担当者はロイターに、中国からの訪問団は検査で陰性の反応だったと述べた。

フィッシャー氏ら専門家は今回の状況について、2003年に香港のホテルで1人の医師が「スーパー・スプレッダー」となって重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染を爆発的に広げたケースと比べている。

WHOもこのシンガポールの会議での新型コロナウイルス感染を巡る調査を開始したが、スーパー・スプレッダーがいたかどうか断定するのは「時期尚早」だとくぎを刺している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相

ワールド

中国、台湾への干渉・日本の軍国主義台頭を容認せず=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中