最新記事

新型肺炎:どこまで広がるのか

中国一党独裁の病巣が、感染拡大を助長する

CHINA DIDN’T LEARN FROM SARS

2020年2月15日(土)14時30分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

さらに中国の公衆衛生システムの最も深刻な欠陥は、予防の重要性が十分に認識されていないことだ。SARS禍から学べる教訓があるとすれば、何よりもまず予防が大事、ということだろう。SARSと同様、今回のコロナウイルスも、生きた野生動物をその場で解体して売る不衛生な海鮮市場でヒトにうつった可能性が高い。こうした病原体による感染症の発生を防ぐには、何よりもまず食品取り扱いの衛生基準を設け、業者にそれを守らせる必要がある。地方当局が頻繁に検査を実施し、違法行為を厳しく取り締まらなければ衛生管理は徹底できない。

残念ながら中国の官僚機構はこうした任務を得意としていない。検閲をしたり、反政府分子を抑え込んだり、壮大な事業や行事で威光を示すなど、権力維持のための職務では驚くほどの有能ぶりを発揮するが、食品の安全性を守り、大気汚染に対処するなど国民のための日常的な業務を行う能力は驚くほど低い。

理由は至って単純だ。共産党の最優先課題はどんな状況になろうと現体制を維持すること。その目的のためにのみ、どんな代償を払おうと、あらゆる資源を注ぎ込む。

中国の官僚、特に地方当局者には、市民のために働くインセンティブがほとんど働かない。彼らは市民に説明責任を負っていない(お粗末な仕事ぶりでも、よほど重大な危機が起きない限り、市民の怒りを買って地位を失う心配はない)。

公共の利益が守られるには、公務員が高い職業意識を持ち、汚職の誘惑に負けずに規制を徹底すること、その仕事ぶりが市民の監視下に置かれることが必要だが、今の中国にはそうした条件は欠けている。

新型肺炎の感染拡大で中国はいま大きな代償を払っている。習政権は死力を尽くして事態を収束させるだろう。その点はまずまず楽観視していいが、中国の現体制が抱える根深い欠陥を見れば悲観的にならざるを得ない。習政権が今回の災禍に学び、再び同じ過ちを繰り返さないとは思えない。悲しいかな、中国では歴史は1度だけではなく、ほぼ例外なしに何度でも繰り返される。

<2020年2月18日号「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集より>

20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空

ワールド

中国、フェンタニル対策検討 米との貿易交渉開始へ手
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中