最新記事

イスラム過激派

フィリピン南部で医師誘拐 軍との戦闘で負傷者がいるイスラム系テロ組織の犯行か

2020年2月7日(金)16時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

銃で武装した4人組に誘拐されたダニエル・モレノ医師 Eagle News / YouTube

<ISやアルカイダなど中東のイスラム過激派組織が追い詰められている一方で、東南アジアではテロ組織の活動がいまだ続いている>

フィリピン南部のスールー州で2月4日に地元クリニックで働く医師が正体不明の男らに連れ去られる事件が発生した。地元警察や軍の対テロ部門などは同地域で活動を続けているフィリピンのイスラム系テロ組織「アブ・サヤフ」による誘拐事件との見方を強めて行方不明となっている医師を捜索している。

地元紙「フィリピンスター」や「ブナ―ルニュース」などの報道によると、スールー州などを管轄する現地軍の報道官が5日、同州ホロ島にあるホロ市中心部で4日夜、ダニエル・モレノ医師が銃で武装した4人組に拉致され、赤い車に乗せられてインダナン方面に連れ去られたと発表した。

目撃者などの情報ではモレノ医師は市中心部にある自宅兼クリニックから誘拐されたが、クリニックが警察署や市役所に近い場所であることから犯人ら4人組は軍人や警察の制服を着用して変装してモレノ医師を連行したという。

モレノ医師を乗せた赤い車は逃走方向であるインダナン市でも目撃されており、同方面を経由して行方をくらませたとみている。警察によるとこれまでのところ今回の事件に関する犯行声明や身代金の要求は届いていないという。

負傷者治療目的で医師誘拐か

現地警察などによると、犯行はイスラム系テロ組織アブ・サヤフによる可能性が極めて高いという。その根拠として、①ホロ市、インダナンなどはいずれもアブ・サヤフの活動地域である ②誘拐は近年のアブ・サヤフの資金稼ぎの常とう手段である ③アブ・サヤフのメンバーに多数の負傷者がでており、医師、看護師などの医療関係者が必要とされていた、などが指摘されている。

アブ・サヤフは1月18・19日に同じく南部のタウイタウイ州で2度に渡りフィリピン軍と衝突し激しい銃撃戦となった。この時アブ・サヤフ側は少なくとも5人が死亡し、現場を逃れた多数のメンバーが負傷したと伝えられている。このため潜伏中の負傷メンバーの手当て、治療が緊急に必要とみられていたことから軍や警察は同地域周辺で従事する医療関係者に対して「身辺に注意するように」との警告を発していたという。

今回の事件がアブ・サヤフによる「負傷者の治療」が目的の医師誘拐であるとすれば、犯行声明や身代金要求など「通常の誘拐事件」とは異なる展開になる可能性があると治安当局ではみている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米国に抗議 台湾への軍用品売却で

ワールド

バングラデシュ前首相に死刑判決、昨年のデモ鎮圧巡り

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機100機購入へ 意向書署名とゼ

ビジネス

オランダ中銀総裁、リスクは均衡 ECB金融政策は適
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中