最新記事

新型コロナウイルス

「自分は何もできなかった」──新型肺炎を最初に警告した武漢の医師が自らも感染、死亡

Wuhan Whistleblower Doctor Dies From Coronavirus As Death Toll Spikes

2020年2月7日(金)15時00分
ジェニ・フィンク

武漢中央病院の李文亮医師は1月12日からICUで治療を受けていた South China Morning Post/YOUTUBE

<SARSに似た新たな感染症の発生をいち早くSNSで発信し、中国公安当局から処分を受けた武漢の医師は、後悔の中で死んだ>

昨年12月に、新たな感染症の発生をいち早くSNSで発信し、中国公安当局から「デマを拡散した」として処分を受けていた武漢の医師が7日、新型コロナウイルスによる肺炎で死亡した。

米ワシントン・ポスト紙などによると、武漢中央病院の眼科医師、李文亮(リー・ウェンリエン)は、現地時間の7日未明に死亡が確認された。新型コロナウイルスによるものと見られる症状を発症して1月中旬に入院し、今月1日にはウイルス検査で陽性反応が出ていた。

中国衛生当局の発表によると(6日付)、これまでの新型コロナウイルスの中国本土の感染者数は2万8000人以上、死亡者は560人以上に上っている。昨年12月、感染源と見られる武漢海鮮市場の複数の関係者が肺炎に似た症状を起こして治療を受け、新型ウイルスが初めて人間に感染していることが確認された。WHO(世界保健機関)によると、感染は中国本土の他、これまでに24の国と地域に拡大している。

死亡する数日前、李はCNNの取材に対して、中国当局がWHOに報告するよりも早い段階で新たな感染症の発生を医師仲間に警告しようとしたと説明した。中国のメッセージアプリ微信(WeChat)で医学部の卒業生グループにメッセージを送り、7人の患者がSARS(重症急性呼吸器症候群)と同様の深刻な急性呼吸器症状を発症して隔離治療を受けていることを知らせた。

感染情報を隠そうとした疑いが

2002~03年に感染拡大したSARSは、今回同様に中国で発生したコロナウイルスの一種で、8098人が感染し774人が死亡している。当時、中国政府はSARS感染に関する情報を隠匿して厳しい批判を受けた。今回も隠そうとするのではないかという疑念があったと言われている。

李は微信で、医学部の同窓生に「注意」を喚起し、その家族などに個人的な注意を呼び掛ける意図でメッセージを出した。しかしメッセージはたちまちソーシャルメディアで拡散され、李は1月3日に地元警察署に呼び出された。

警察は李を「オンライン上でデマを流布し、深刻な社会秩序の混乱を引き起こした」という理由で訓告処分とし、李はこれ以上「違法行為」をしないと誓う書面に署名をさせられた。この処分の後、新型ウイルスの感染が急激に拡大し、中国の人々の政府に対する怒りは燃え上がった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中