最新記事

イギリス

関税だけじゃない、EUを離脱したイギリスを待つ試練

2020年2月3日(月)18時05分
ウィレム・バイター(コロンビア大学客員教授)

離脱支持派はお祝いムードだが……(1月31日、ロンドン) HENRY NICHOLLS-REUTERS

<貿易協定締結までEU-カナダは12年かかった。ジョンソン政権は大きな政府を志向している。ブレグジットは実現したが、その悪影響を抑えるための厳しい交渉と政策実行が待っている>

1月31日、とうとうイギリスがEUから離脱した。ジョンソン首相は4年前から訴え続けてきたことをようやく実現したことになる。

しかし、本当に難しいのはこれからかもしれない。12月末に離脱移行期間が終了した後、貿易や経済、政治の面でイギリスとEUの関係がどうなるかはまだ見えてこない。

移行期間の延長はないとジョンソンは主張しているが、これもどうなるか分からない。ジョンソンは、昨年10月31日にブレグジット(イギリスのEU離脱)を断行すると述べていたのに、約束を守らなかった「前歴」がある。

EUとイギリスの今後をめぐる交渉は、これから始まると言っても過言でない。その上、貿易交渉はたいてい数年単位の期間を要する。EUとカナダが「包括的経済貿易協定(CETA)」の締結に向けて動きだしたのは、2004年3月。署名にこぎ着けたのは2016年10月だった。しかも、協定はまだ全面的には発効していない。

貿易交渉というと、関税と数量制限のイメージが強いが、これらは交渉テーマの一部にすぎない。そのほかにも、さまざまな規制や手続き、補助金、税制、為替操作などによって輸入品が締め出される場合がある。環境保護や労働者保護、食品の安全確保、植物検疫、知的財産権の保護などが輸入制限の隠れみのに用いられたりもする。

例えば、フランス政府は1982年10月、日本製ビデオデッキの輸入を全てポワチエという内陸の小さな町の税関を経由させるよう義務付けたことがある。これは巧妙な非関税障壁と言えた。

貿易交渉の難しさを考えると、イギリスとEUの未来の貿易関係がどのようなものになるかは現時点で極めて不透明だ。イギリスは、非EU諸国との貿易協定の交渉でも苦労するかもしれない。EUが一体となって交渉する場合より、どうしても立場が弱くなるからだ。

ブレグジット推進派の中には、万事うまくいくと楽観している人たちもいる。しかし、規制緩和を徹底し、税率の低い国をつくるというジョンソンの約束が守られるとは考えにくい。ジョンソンは、大きな政府、国家による経済の統制、そして一国主義を好む傾向が強く、大衆迎合主義により大企業に厳しい姿勢で臨む可能性もあるからだ。

それでも、金融産業では規制緩和が行われるかもしれない。ロンドンの金融産業はEU諸国にビジネスをかなり奪われるだろうが、規制緩和に成功すれば、EU諸国やそのほかの国々から新しいビジネスを引きつけられる可能性もある。一方、自動車の場合は、政府による規制の在り方や業界の体質を改めることが難しいように思える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第3四半期速報値は4.3%増 予想上回る

ビジネス

米CB消費者信頼感、12月は予想下回る 雇用・所得

ワールド

トランプ氏「同意しない者はFRB議長にせず」、就任

ワールド

イスラエルのガザ再入植計画、国防相が示唆後に否定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中